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5☆s 講師ブログ

神は無私の心に宿る(2)

蓮月焼の儲けがどうなったかの謎は、嘉永3年(1850年)の飢饉の際に解き明かされます。

窮民の救済に当たっていた、京都東町奉行所の与力平塚表十郎の元に、蓮月の命を受けた鉄斎が包みを届けに現れます。
包みの中身は30両。
現在の価値でいうと1,000万円近い大金です。

蓮月はこれを匿名で届けるよう命じていたのです。
おかげで鉄斎は、奉行所から怪しまれて取り調べを受ける羽目になりました。

ところで、その蓮月の生い立ちはというと、これが結構複雑なのです。
天明8年(1788年)正月晦日、鴨川の東のほとり宮川町団栗辻子(どんぐりずし)の裏店から出火した「天明の大火」は、禁裏御所をも焼き付くし、帝は駕輿丁(かよちょう)に担がれて下鴨の森に逃げ込む事態となります。

焼け野原となった京都では、大名屋敷を再建するため全国から武家たちが集められました。
津藩藤堂家の重臣、藤堂新七郎もそのひとり。
藤堂の祖父、新七郎良勝は初代藩主藤堂高虎のいとこで、関ヶ原の戦いでは大谷刑部(ぎょうぶ)の軍を壊滅させるなどして勇名を馳せた人物。

ところが欲がなく、高虎がその功に1万石を与えようとしましたがこれを受けず、2万石という提案も拒否します。
怒った高虎はとうとう5千石にしてしまいますが、良勝の望みは金銭ではなかったようです。
因みに、新七郎の台所料理人を勤めていたのが松尾芭蕉。
伊賀上野の武家の家来だったことが、「芭蕉忍者説」や「芭蕉隠密説」が囁かれる根拠のひとつになっています。

芭蕉の正体は不明ですが、『奥の細道』の奥州の旅に同行した弟子の河合曾良が、仙台藩の兵力に関して諜報活動をしていたことは事実てす。

さて、この新七郎と京の芸妓との間に出来た落胤が蓮月でした。
新七郎は、この子を山崎常右衛門という知恩院の寺侍に託します。
寺侍とは禄がたったの三石しかない貧乏侍のこと。

新七郎とは何度か碁を打ったことがあるというだけの縁でしたが、常右衛門はまだ産まれてもいない赤子を不憫に思い、二つ返事で引き受けてしまいます。
やがて産まれた赤子は「おのぶ」と名付けられ京でも評判の美人に成長しますが、極貧と不幸の数々は筆舌に尽くしがたいものがありました。
常右衛門にしてみれば、相手は伊賀上野の殿様ですから、多額の養育費をふんだくることもできたはず。
しかし、この男もまた実に欲のない人間でした。

おのぶは生涯2度結婚し4人の子供をもうけますが、その全てが早死にしてしまいます。
人生の艱難辛苦を嘗め尽くしたおのぶは、やがて知恩院門主から「蓮月」という法名を与えられて出家し、『蓮月焼』で生活の糧を得ることとなるのでした。
そんな蓮月が晩年を迎え漸く西賀茂村に腰を落ち着ける頃に、世は幕末の動乱期を迎えます。

官軍と旧幕府軍の壮絶な戦いが繰り広げられる中、官軍の西郷は徳川を賊徒として討つ覚悟を固めます。
この国を焦土とした後、新しい国をつくる。
それが西郷の考えでした。

一方、ひとつの国の中で人が殺し合うことなどあってはならないと考える蓮月は、短冊に和歌をしたため西郷に直訴します。
「あだ味方 勝つも負くるも 哀れなり 同じ御国の 人と思へば」
短冊は、西郷の指南役の春日潜庵を通じて届けられ、西郷は大津の軍議でこの和歌を諸将に示したといいます。
もしかしたら、江戸城総攻撃を回避させた真の立役者は蓮月だったのかもしれません。

晩年の蓮月は死に仕度を整え、自らの棺桶を用意して米櫃として使っていました。
ところが、貧しい家で不幸があると聞くと、すぐにその棺桶を与えてしまいます。
その度に新しい棺桶を仕入れるのですが、いくつ買ったかわからなくなるほど。

しかし、長寿の蓮月も病には勝てず、明治8年12月腸チフスにより85年の生涯を閉じることとなります。
西賀茂村の村人が総出で弔う中、参列者の誰かが「これはいくつめの棺桶やろな」と呟いた瞬間、心の中に押し殺していた感情が一気に吹き出し、子供から年寄りまで皆大声をあげて泣いたといいます。

そのうちのひとり、西村弥兵衛は後にこう語ります。
「蓮月さんは活きた神様でした」

ベンチャー企業の社長だとか、あるいはアイドル芸能人だとか、今の日本には神が溢れています。
メディアやSNSには、「お金を儲けたい」とか「有名になりたい」といった、「私心」に満ち満ちた人が連なります。

でも、私は思うのです。
本当の神とは、富や名声とは全く無縁の存在、つまり「無私」の心を持った市井の人々のことを言うのではないかと。

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