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5☆s 講師ブログ

オリンピック症候群

遺伝子の話が続きましたが、今回はシリーズの締めくくりとして変わり種の遺伝子の話をまとめてみました。

最初は、運動能力に関する遺伝子です。
一生懸命ジムに通ってマッチョな体を作り上げたら、その筋肉は将来産まれてくる子どもにも遺伝するのでしょうか。
残念ながら遺伝しません。
でも、運動能力を獲得できるかどうかは、すべて本人の努力次第というわけでもありません。
例えば、筋肉の質に関しては遺伝的な要因が認められています。

一般に筋肉は、「赤筋(遅筋)」と、「白筋(速筋)」に分けられます。
遅いとか速いというのは収縮速度のこと。
収縮速度が遅い赤筋(遅筋)は、長時間収縮し続けることができるので、持続的な運動に適している筋肉です。
主に脂肪を燃焼させるので、ダイエットなどの有酸素運動の際に活躍します。

一方、収縮速度の速い白筋(速筋)は、糖質を燃焼させることで短時間のうちに強い力を発揮することができます。
赤とか白というのは筋肉の色のことで、赤筋が赤みがかっているのは酸素を貯蔵する「ミオグロビン」を多く含むためです。
これは赤身の魚と同じ理屈。
陸上競技でいうと、生まれつき赤筋が発達している人はマラソン向きで、白筋が発達している人は短距離走向きということになります。
でも、向いているというだけですので、もちろん本人の努力がなければオリンピックには出られません。

ところが、生まれつきメダル獲得能力を持った選手もいます。
なんと、「オリンピック症候群」という病気? が報告されています。
これは「エリスロポエチン」(EPO)の受容体に遺伝子変異が起こるもので、本来は508個のアミノ酸で作られるのですが、異変が起こった人は438個で作られるそうです。
エリスロポエチンは赤血球を増やす造血因子で、ドーピングはこれに関係しています。
ですので、この遺伝子変異がある人は、生まれつきのドーピング体質だと言っても過言ではありません。

これは不公平ですよね。
オリンピックでいい成績を残せるのは当然です。
また、オーストラリアのスポーツ協会の調査によると、筋肉を作るタンパク質にも遺伝子が関係しているそうです。

彼らが調べたのは「アルファ・アクチニン・スリー」(ACTN3)という、ある筋肉に存在する特別なタンパク質。
これは速筋の中でだけ作られるタンパク質で、瞬発力に関係しているため短距離の競技ではACTN3が多いほど有利になります。
オリンピックの100m走に出場する外国人選手の筋肉を見ていると、そもそも日本人のそれとは別物のような気がしますが、恐らくACTN3をつくる遺伝子が違っているのでしょう。

また、ACTN3の遺伝子にはストップコドンがあり、これが働くと今度は「ACTN2」というタンパク質が作られます。
これは遅筋の中でだけ作られますので、長距離選手向きということになります。
アフリカのマラソン選手などは、この遺伝子が働いているのかも。

こんな話を聞くと、オリンピックでメダルを獲った選手を素直に祝福できなくなりそうです。
実は、すでに遺伝子検査で「この選手はこの種目に適、あるいは不適」と選別をしている国もあるそうです。
さらに言えば、もし遺伝子操作が行われたとしても、現時点ではドーピング検査によって見抜くことは不可能だそうです。
なので、これに手を染める国が出てくるのは時間の問題でしょう。

遺伝子操作に関しては、よく「神の領域」を侵すものだと批判する人がいますが、この議論はそもそもの前提が間違っています。
なぜなら、「神の領域」という考え方は、信仰する宗教を持つ民族の間でのみ成立する認識であり、宗教的な土壌を持たない民族や、イデオロギーとして宗教を否定している国家にとっては、そのような概念自体が存在しないからです。
だから、「神の領域」以外の新たな倫理観を築いた上で、それをベースに議論していく必要があるでしょう。

さて、スポーツの話題はこのくらいにして、次は「びっくり遺伝子」のお話。
ちょっとのことでも、飛び上がって驚くほどビビりの人がいますが、どうやらこれも遺伝らしいのです。

「遺伝性びっくり症候群」は、正式には「ラター症候群」という立派な遺伝病で、フランスからアメリカのメーン州のムースヘッド湖畔に移住した人たちの集落に多く見られるそうです。
彼らは、ちょっとした物音にも飛び上がって驚くのですが、原因は第5染色体上にある「グリシン受容体」の異常ということがわかっています。

グリシンというのは抑制性神経の伝達物質なので、これに異常があると感情のブレーキがうまく利かずに、興奮しっぱなしの状態になります。
ところが、この「びっくり病」は、遺伝性のものだけではありません。
家族にそういう人がいなくても、突然「びっくり病」になる人がいます。
幼児期に睡眠時の無呼吸のせいで、命に関わる経験をしたことがある人に多いと言われています。

さて、次は睡眠に関する遺伝子の話です。

まずは「おねしょ遺伝子」。
坂本龍馬は13歳までおねしょをしていたそうですが、これは遺伝ではありません。

夜尿症にも型があるそうで、なかでも「l型」というのは7歳過ぎまで毎晩3回かそれ以上おねしょをしていたという重症患者です。
アイバーグが、デンマークの400家族を対象に調査したところ、なんと11家系でl型が見つかりました。
その原因遺伝子については大体の位置が分かっています。

13番染色体の長腕部分の、q13からq14バンドの間に存在するそうです。
このqというのは地図の番地を表す住所表記のようなもので、X染色体の長い腕の方がq、短い腕の方がpという決まりになっています。
qのあとの13というのは、根本に近い第1領域の3番目のバンドという意味です。

睡眠と言えば、「不眠症遺伝子」も見つかっています。
正式には「致死性家族性不眠症」(FFI)といって、「狂牛病」として有名になった「クロイツフェルト・ヤコブ病」同様、脳に異常なタンパン質(プリオンタンパク質)が蓄積することにより発症する病気です。
主にイタリアやスペインで見られる病気で、日本での発症例はきわめて稀です。
夜なかなか寝つけないという人は、ついつい遺伝のせいにしたくなりますが、残念ながらあなたは違います。
この病気を発症すると知的能力がどんどん低下して、やがて筋肉の不規則な痙攣に襲われ1年半ほどで死んでしまうそうです。
寝つきが悪いという人も、遺伝ではないことがわかってひと安心ですね。

最後は「モノ忘れ遺伝子」です。
モノ忘れがひどいという人は、もしかしたら遺伝かもしれませんよ。
この遺伝子は、ショウジョウバエの研究で発見されました。
ショウジョウバエの中に、モノ忘れが激しいハエがいて「アムネジック」と命名されましたが、このハエのamnという遺伝子に異常が見つかっています。

ヒトの場合、このamn遺伝子に該当するのは「PACAP」という遺伝子です。
この遺伝子は、脳の細胞膜にある「アデニル酸シクラーゼ」というタンパク質に結合する物質に関係することがわかっています。
アデニル酸シクラーゼというのは、記憶が発生するそもそもの出発点となるタンパク質ですので、将来もし頭の良くなる薬が開発されたら、おそらくこのタンパク質に関係するものでしょう。

さて、話が面白くなるのはここからです。
ある研究者が、酒に弱いハエを掛け合わせて子どもを作ったところ、amn遺伝子に異常が発生したというのです。
他にも、様々な遺伝子操作をしてモノ忘れの激しいハエを2種類作ったのですが、不思議なことにどちらも酒に弱いハエでした。
つまり、モノ忘れの激しいハエは、酒に弱いということです。

酒好きの皆さん、これは朗報ですよ。
これまで酒好きというのは、薬物依存やギャンブル依存になりやすいなどと数々の誹謗中傷を受けてきましたが、ようやく汚名返上の時がやってきました。
なぜなら、この理屈からすると、酒好きはモノ忘れをしにくいということになるからです。

よかったですね。

でも、私の経験では、酒好きの人は飲み過ぎてよくカバンを電車に忘れたりしてました。
どうやら、遺伝子の働きにも限界があるようですね。

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