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5☆s 講師ブログ

か弱き開拓者

強い潮風が吹き付ける海岸に、砂防用の松が植えられているのをよく見かけます。
松は、厳しい自然環境下でも生き抜くたくましい木で、荒廃した高山などに最初に進出していく「開拓者」でもあります。

ところが、次第に松が群生するようになり、下草が生い茂って森が豊かになると、今度は椎や樫などの照葉樹が台頭し始めます。
すると、松は照葉樹との生存競争に負けてしまい、より険しい高地を目指すしかなくなるのだそうです。

つまり、松が厳しい環境に進出する理由は、他者との競争がない不毛の土地でなければ生きていけないからです。
開拓者が荒れた土地に挑むのは、肥沃な土地では他者との競争に負けてしまうからだったとは随分示唆的な話ですよね。

ビジネスでは、競争の激しいマーケットのことを「レッド・オーシャン」と言います。
価格の叩き合いなどにより、そこは文字通り「血の海」。
経営陣は、競争相手のいない新しいマーケット、すなわち「ブルー・オーシャン」を探せとお気楽なことを宣いますが、それは簡単なことではありません。
他社が手を出さないような不毛なマーケットに、死を覚悟して進出していくわけですから。

ちなみに、近年の地球温暖化や環境破壊の影響により、日本の森林が危機に瀕しているとマスメディアは喧伝しますが、専門家の見解は全く違います。
現代の日本の森林は、有史以来最も豊かな状態なのだそうです。
そういえば歌川広重の東海道五十三次には、鬱蒼と生い茂る森など出てきませんよね。
登場する木はほとんどが松。
それだけ山が荒廃していた証拠です。

さらに明治にかけては、住宅用や燃料用として森林の伐採が盛んに行われたため、日本中の至る所に禿げ山が出現しました。
日本の森林が豊かになるのは、戦後の植樹政策まで待たなければなりません。

ところで、厳しい自然環境と聞いて、真っ先に思い浮かんだのはスコットランドのハイランド地方。
あまりの厳しさに、さすがの松も生息できません。

なかでも大西洋に面するスカイ島は、人が寄りつくことを拒否するかのような孤高の佇まい。
凄まじい風が吹き付ける険しい岩場は、絶えず荒波が洗っています。
島民の半数は今でもゲール語を話せるという事実から、よそ者が入り込むのが難しかったことがわかります。

「スカイ」と聞くと青い空をイメージしてしまいますが、残念ながら深い霧に閉ざされる日の方が多いようです。
もっとも、スカイの綴りは“sky”ではなく“skye”。
モルト・ウィスキー『タリスカー』のラベルに描かれている、翼を広げたような島の形から名付けられたと言われています。

かつて、「王様」がこの島に逃れたことがありました。
1746年、インヴァネス近郊での「カロデンの戦い」で、ジャコバイト軍はイングランド軍との最後の決戦に臨みます。
しかし、結果は大惨敗。
その時、イギリス政府軍の総司令官カンバーランド公ウィリアムス・オーガスタスは、追撃の手を緩めず敗残兵を徹底的に探索し片っ端から虐殺しました。
追い詰められたジャコバイト軍の「若僭王」チャールズ・エドワード・スチュアートは、女中に変装して命からがらスカイ島に脱出したといいます。

それから80年の時を経て、この島に羊を運ぶ仕事をしていたヒューとケネスのマカスキル兄弟が、蒸留所の建設に着手します。
『タリスカー』とは、その時滞在していた「タリスカー・ハウス」からとったもの。

この宿泊施設は、スカイ島を700年以上に渡り支配してきたマクロード氏族の末裔、イアン・マクロードが息子のために建てたものです。
そのイアンはエディンバラでブレンダーとして活躍した人物ですが、彼の手による傑作『アイル・オブ・スカイ』は、もちろん『タリスカー』がキー・モルトになっています。
「タリスカー」とは、バイキングの言葉と言われる古代ノース語で、「傾いた大岩」のこと。

マカスキル兄弟の創業により、島には密造も含めいくつかの蒸留所が乱立することになりますが、結局生き残ったのは『タリスカー』だけ。
スカイ島の“松”は、競争相手に負けなかったのです。

その理由は、他のどのウィスキーとも違う独特の味わいにありました。
『タリスカー』は競争に生き残る手段として、強さではなく個性を求めたのです。

「舌の上で爆発するような」とか、「強い胡椒風味」と評されるスモーキーな塩味を生み出しているのは、逆U字型をした初留釜のワインアーム。
こんな形のアームは他に見たことがありません。
ラベルに“MADE BY THE SEA”とあるのは、潮風を感じてほしいという意味でしょうか。

『宝島』や『ジキル博士とハイド氏』の作者ロバート・ルイス・スティーブンソンはこの味わいを高く評価し、「酒の王者として思いつくのはタリスカー」と“KING OF DRINKS”の賛辞を贈りました。
「若僭王」が逃げ延びた土地で、ウィスキーの「王様」が誕生するのは皮肉な話ですが、こんな風に褒められるのはマカスキル兄弟にとって本意ではないでしょう。
なぜなら彼らは、「王者」を目指してウィスキーを造っていたわけではなく、あくまで個性的であろうとしただけなのですから。

ビジネスの現場は今日もレッド・オーシャン。
激しい競争に明け暮れる日々に疲れを感じる夜があったら、世界中のどのウィスキーとも違う、飛びきり個性的な“か弱き開拓者”の風味を味わってみるのも、いい気分転換にはなると思いますよ。

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