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5☆s 講師ブログ

悪魔の代弁者(1)

かつて、日本の工業製品が世界を席巻していた時代がありました。
しかし、バブル崩壊以降30年に渡り日本企業は凋落し続け、現在も日本の将来に関する悲観論が渦巻いています。

特にIT関連分野はアメリカ企業の独壇場で、日本企業は大きく遅れをとっています。
かつてのように、日本企業が世界をリードすることは望むべくもないのでしょうか。

ハーディ智砂子は、スコットランド在住の日本株のファンドマネージャー。
フランスの保険グループAXA(アクサ)の資産運用会社で、日本株アクティヴ投資の責任者をしています。

ハーディによると、外国から日本を眺めると全く違った風景が見えてくるのだそうです。
毎年数百人の日本企業の経営者やスポークスマンと話をする彼女は、今後は日本企業が生み出す環境技術や新素材が世界をリードしていくと確信しています。
なぜなら、企業経営者に大きな変化が生じているからです。

その変化とは、経営者の多くが「競争はできるだけしない」と口にするようになったことです。

かつての日本企業は、機能面や価格面といったフィールドで熾烈な競争を繰り広げてきました。

しかし、現在の戦い方は大きく変わっています。
特に、新規事業開発にその特徴を見ることができます。

最近、キリンホールディングスの社長がテレビに出演し、「ビールのシェアにはもうこだらない」と発言しました。
というのは、ビールのマーケットは1994年をピークに年々縮小を続けており、全体のボリュームが小さくなる中でシェアを奪い合っても消耗戦にしかならないからです。
そこで、キリンはアルコール事業一本に頼る経営ではなく、例えばプラズマ乳酸菌などのヘルスケア事業など別の事業軸を育てていこうとしています。

他に知られているところでは、ホンダの小型ジェット機の製造販売事業があります。
すでに累計250機の納入実績があり、ここ数年は小型ジェット機納入のトップの座を維持しているそうです。

異業種参入という点でユニークなのは、JR西日本が「お嬢サバ」というブランドサバの陸上養殖を開始したことです。
最近では、サバだけでなくクエやカワハギ、ヒラメ、エビなども手掛け、養殖場所もJR西日本管内だけでなく九州や東海エリアなど11カ所にまで拡大しています。

アイリスオーヤマは米や水を扱う食品事業に進出しましたが、それらの売り上げはすでに全体の10%を占めるところまで成長しています。

彼らがフォーカスしているのは、「競争」ではなく「差別化」。

要するに他社でやらないことや、他社にはできないことを追求していくという姿勢です。

もし、どうしても差別化が難しく、しかも将来大した利益の成長も見込めない分野については、たとえ現在利益が出ていたとしても撤退の決断をする企業が珍しくないそうです。
撤退した分の経営資源を、価値を生む他の分野の投資に向けるのです。

この背景には、日本企業のビジネスモデルが大きく変化したことが関係しています。
かつて、世界中のメインストリートには日本企業の広告看板が溢れていました。
でも、現在はほとんど見かけません。
日本企業にかつての勢いがなくなったからだと言う人もいますが、決してそうではありません。

日本企業のビジネスモデルが、B-to-CからB-to-Bに変わってしまったからです。
B-to-C時代の経営戦略は、画一的な規格品を大量に生産することで製造コストを引き下げ、マスメディアを通じて大々的な広告宣伝を展開することで、低価格の規格品を大量に販売するというものでした。
当時は、大量生産・大量消費というビジネスモデルが、日本企業成長の原動力だったのです。

大量生産を可能にするためには、指示されたことをキチンとこなせる人材を揃えなければなりません。
そこで企業は、協調性に優れた新卒者を大量に採用し、彼らに徹底した社内教育を施すことで、まるで規格品のように画一的な社員を育成しようとしました。
この育成システムは、周囲の人と同じ行動を取る傾向がある日本人の気質に見事にマッチし大流行します。

その後、企業を取り巻く環境が激変したことによりこのシステムは通用しなくなりますが、組織のあり方や働く人のメンタリティーというのは簡単には変われません。
なぜなら、メンタリティーは文化に根差しているからです。

とりわけ致命的だったのは、人事権を持つ人間の考え方が変わらなかったことです。
でもハーディは、これからの人事は権力ではなく、価値を最大化するためのサイエンスになるだろうと予測しています。

従来の、取りあえず新卒者を採用しておいて、それから彼らに何をしてもらうかを考えるというやり方はもう通用しません。
これからの採用は、このポジションではどういう能力や資質を持った人が最大価値を生み出せるかを明確にした上で、その能力や資質があるかどうかを見極めることが人事の仕事になります。

採用は、今大きな転換点を迎えているのです。
かつての人事部は、「地頭がよい」人を採用しようとしてきました。
「地頭がよい」人というのは、汎用性が高い人のことです。

「地頭がよい」人は、どんな事態になってもある程度の対応ができます。
どんな仕事を命じても、そこそこの水準まではこなせます。
でも、「地頭がよい」ことと、「価値の最大化」とは何の関係もありません。

日銀政策委員会の審議委員を努めた経済学者の原田泰は、著書『日本人の賃金を上げる唯一の方法』の中で、知人から聞いた興味深いエピソードを紹介しています。

それは、メガバンクの部員は、行員と面談する際に専門知識について質問してはいけないということです。
なぜなら、聞いてしまうと人事部の人間が何も知らないことがバレてしまい、部の権威に傷がつくからだとか。
銀行で人事部というのは超エリートコース。

要するに、「価値を生む能力」がなくても、「地頭のよさ」と世渡りのテクニック、それに社内の政治闘争を勝ち抜くだけの強かさがあれば出世できたのです。

旧第一勧業銀行出身の作家の江上剛は、作家活動の糧になればと思いハローワークの面接を受けたことがあります。
経歴を聞かれた江上は、すかさず「銀行の人事部にいました」と自慢気に答えましたが、「では、人事の制度設計はできますか?」と質問され、大いに落ち込むことになります。

銀行の価値観では、人事部に在籍していたことは大いなるステータスでしたが、一旦銀行を離れてしまうと、銀行業務の専門知識どころか人事に関する専門知識さえ持っていない「使えない」人間であることを思い知らされたのです。
今後は、社内でしか通用しない価値基準は何の意味もなくなります。

では、これからの人事部に求められるものとは、一体どのようなものなのでしょうか?
ハーディは、あるIT企業の衝撃的な事例を紹介してくれています。

 

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