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5☆s 講師ブログ

心の清らかな従業員(3)

教育の影響を受けていたのは従業員だけではありません。

経営幹部もそうでした。
いや、正確に言うと、人格者でなければ経営幹部に登用されなかったのです。

創業の翌年に設立された高等養蚕伝習所で学んだ片山金太郎を、鶴吉は現業長として最高給で会社に迎えます。
後に専務取締役となる片山の人柄は、「清廉高潔」の一語に尽きたといいます。

片山は、社内のあらゆる会議に出席しましたが、決して自分から口火を切ることはせず、全員の意見に黙って耳を傾け丁寧にメモを取った上で、会議の最後になってようやく口を開いたそうです。
主張をゴリ押しすることはありませんでしたが、不思議なことに片山の意見には全員が同意しました。

なぜなら、偏った考え方に与することなく、常に公平な真理の上に立って発言していたからです。
どうです?
皆さんの会社に、片山のような「偉いサン」はいますか?

このような幹部たちの経営姿勢に従業員も感化されます。
第一次世界大戦に伴う経営危機の際には、従業員が自発的に給料の一部返上を申し出たそうです。

幹部と従業員が一丸となってグンゼを盛り上げた結果、創立20周年を迎えた1917年(大正6年)11月16日、先述した貞明皇后の行啓が実現します。
でも、迎える側の緊張感も相当なものがありました。

当時3歳だった孫の瀧野初子は、もし風邪など引いたら大変と、数日前から咳払い一つできない空気が家中を支配していたと証言します。
鶴吉本人は、何かあったら腹を切る覚悟で当日を迎えました。

その甲斐あって行啓は無事終了したのですが、緊張感の悪影響はその翌年に不幸な形で現れてしまいます。
在郷軍人会で講演している最中、突然鶴吉の意識が朦朧となりました。
言葉が出ず「エー、エー」と同じ言葉を繰り返すばかり。
手帳のページを捲ろうとするのですが、指がうまく動きません。

異変を察知した町長が、すぐに鶴吉を抱き抱えて椅子に座らせますが、もはや言葉を発する余力さえ残っていませんでした。
医師の診断は「脳溢血」。
享年60。

金にも名誉にも執着することなく、ただひたすら自分の信念に従って生きた男。
権力ではなく、人格だけで会社を発展させた稀有な経営者の最期でした。

『妍蟲記(けんちゅうき)』。
現在、グンゼの新入社員教育のテキストとして使われている小説です。
『徳川家康』などの時代小説で知られる人気作家の山岡荘八が、鶴吉をモデルに1947年(昭和22年)に発表しました。

昭和22年といえば、あのゼネストが計画されていた年。
まさに労働組合の隆盛が頂点に達し、日本が革命前夜のような熱気に包まれていた年です。
なぜこんな時期に、しかも時代小説が得意な山岡が、なぜわざわざこんな社会小説を書き上げたのでしょう。

その後日本は高度成長期を経験し、鶴吉の頃よりは豊かになりました。
しかし、労働を取り巻く社会構造は、大して変わっていないような気もします。

安い給料でひたすらコキ使われる従業員。
グローバリズムの恩恵で天井知らずの報酬を貰っているのに、一円でも安く商品を売ることに日々心を砕く経営者。

「心が清ければ光沢の良い糸ができる」

「善い人が良い糸をつくる」

鶴吉の信念は、もうすっかり忘れ去られてしまったのでしょうか。

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