株式会社ファイブスターズ アカデミー

最近、脳科学が失恋の際の対処法を解明してしまいました。
中脳に位置するドーパミン産生細胞は、報酬が手に入らないことに気づくとその活動を減少させます。

つまり、恋人はもう戻ってこないという現実を受け入れることができれば、中毒状態から脱することができるのです。
まさに「諦めが肝心」。

フィッシャーは、失恋の痛手から立ち直る有効な方法を教えてくれています。
まず、中毒の対象の「痕跡」を消し去ること。
つまり、恋人からもらったカードや手紙は捨てた方がいいということです。
当然、電話番号やメールアドレス、画像は消してしまいましょう。

他には、体を動かしたりして常に忙しい状態にし、気を紛らすという方法もあります。
ただこれも程度問題で、あまりに報酬系の働きが抑えられてしまうと、今度は無気力状態に陥ってしまうそうです。
気分を決定する脳のバランスというのはとても微妙なのです。
でも、この程度の話なら別に学者にアドバイスされなくたって、経験上わかってることですよね。

では次に、いよいよ問題の「不倫脳」の話に移りましょう。
浮気に関しては、２０１６年２月のブログ『浮気遺伝子』でも触れていますが、ちょっと復習しておきましょう。

「浮気遺伝子」が見つかったのは、人間ではなくハタネズミでした。
ハタネズミには、プレイリーハタネズミとアメリカハタネズミというよく似た種類があるのですが、その行動は全く正反対。
プレイリーハタネズミは一夫一婦制ですが、アメリカハタネズミのオスは大変な浮気者。
この違いをもたらしたのは、バゾプレッシン１ａ受容体(Ｖ１ａＲ)の数でした。
受容体の数が少ないと浮気者になるというのです。

その後の研究で、脳の中の「腹側淡蒼球」という部位にバゾプレッシン受容体がある場合は単婚、ない場合は多重婚になることがわかりました。

でも、バゾプレッシンは抗利尿ホルモンとも呼ばれ、腎臓で作られる尿の量を減らす作用のある物質。
歳を取ると夜中にトイレに行く回数が増えるのは、このバゾプレッシンがあまり作られなくなるからです。
そんなホルモンが、なぜ単婚や多重婚と関係しているのでしょう？
本当に不思議です。

さて、今回新たに紹介するのは、京都大学助教の上田竜平が大学院生だった頃に行った実験です。
参加者は全員男性。

fＭＲＩで脳を撮像している最中に、様々な女性の顔写真を見せるのですが、その際「恋人あり」か「恋人なし」の情報も一緒に呈示します。
その上で、写真の女性とどの程度交際したいかを質問します。

結果、全体的には「恋人あり」よりも「恋人なし」の写真の方に、「交際してみたい」と答える傾向が見られました。
まぁ、当たり前と言えば当たり前。

ところが、中には「恋人あり」でも全くお構いなしという“強者”もいました。
そこで、その人の脳の活動を調べたところ、先述した「眼窩前頭皮質」の活動が高いことがわかったのです。

「眼窩前頭皮質」は本当に“くせ者”です。
気をつけましょうね。
おそらく週刊誌に不倫をスッパ抜かれた芸能人などは、この「眼窩前頭皮質」の活動がよほど活発なのでしょう。

阿部は、もしそうなったら「すみません、眼窩前頭皮質が反応してしまったので」と釈明してはどうかと冗談めかして提案していますが、やはり止めておいた方が無難でしょう。
もちろん、「腹側淡蒼球のバゾプレッシン受容体が少ないので」という言い訳もダメです。

このように、「不倫」も脳科学で解明されつつあるということは、そのうち婚約前に「眼窩前頭皮質」の活性度合いや、腹側淡蒼球のバゾプレッシン受容体の数を調べる検査が流行るかもしれません。

でも、考えてみると浮気しそうかどうかなんて、相手の日頃の行動をじっくり観察していればわかる話ではありますけどね。
そんな冷静さを失うほど、脳の中ではセロトニンが減少しているのでしょう。

ところで、人生で一度も恋愛したことがないという人間は存在するのでしょうか。
フィッシャーの著書『人はなぜ恋に落ちるのか』の訳者である大野晶子は、「訳者あとがき」の中でこう記しています。

「『わたしは人を愛したことがない』と公言してはばからなかった人物なら、ひとり知っている─シャーロック・ホームズだ。

だが、そのホームズをこの世に誕生させた張本人も、二度結婚しているところからして、やはり恋の味を知っていたらしい」

そして、こう続けます。
「恋愛には、だれよりまともな人間を狂わすほどの魔力がある」

ほら、やっぱり恋愛と麻薬は似ているでしょう。