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5☆s 講師ブログ

なぜ給料が上がらないのか?(1)

日本は長期間に渡って給与が上がっていません。
なぜでしょう?

その答えは、日本が異常な「低インフレ国」だからです。
テレビでは、スナック菓子やアイスクリームが値上がりしただけで「インフレだ!」と大騒ぎしますが、物価が上がらなかったことこそが、給料が上がらない最大の原因です。
世界的に見ても、日本は物価が上がらない「不思議の国」です。

ところが、パンデミックの終わりが見え始めたとたん、世界中をインフレが襲いました。
このインフレは、給料の上がらない日本に一体どんな影響を及ぼすのでしょうか。
マスメディアは、生活が一層圧迫されると騒いでいますが、私は全く逆の見解を持っています。
このインフレは、日本経済にとって「福音」になると確信しているのです。

この考え方を分かりやすく解説してくれているのが、経済学者の渡辺努の著書『世界インフレの謎』です。
今回のコロナ禍を多くの人が「戦争」に例えましたが、リアルな戦争の場合は戦争が終わると必ずインフレになります。
なぜなら、生産設備が破壊されているため、需要が回復しても供給が追い付かないからです。
でも今回のパンデミックでは、生産設備は破壊されていません。
それよりも、巣籠もり生活で急減した需要が元に戻るかどうかの方が心配でした。
そのため多くの経済学者は、インフレではなく供給過剰によるデフレの方を心配していました。

ところが、現実は逆でした。

予想に反してインフレになりました。
震源地のアメリカは、なんと9%という水準にまで達しました。
ロシアとウクライナの戦争が原因と見る向きもありますが、渡辺の分析では戦争の影響はわずか1.5%しかないそうです。
となると、インフレの原因は新型コロナということになります。
果たして、パンデミックでインフレになるなんてことがあるのでしょうか?

実は、今回のパンデミックは、これまでの経済学の常識を大きく変えるほどのインパクトを持っていました。
具体的にいうと、経済学では消費者は自分の意思で自由に経済行動を決める、つまり各自の経済行動のパターンは多様であることを前提にしています。
ところが今回は、新型コロナの感染を恐れてみんなが家に閉じ籠るという、「行動の同期」が見られたのです。
その結果、今までの経済学の理論が通用しない事態が生じています。

例えば、「フィッリップス曲線」。
経済学では、インフレ率と失業率の間には負の相関関係があることがわかっています。

インフレ率が上がれば失業率は下がり、逆にインフレ率が下がれば失業率は上がります。
失業率がゼロに近づくことは、景気が過熱していることを意味します。
そのまま放置すると、ハイパーインフレになる可能性があります。

そのため、世界中の中央銀行は、NAIRU(Non-Accelerating Inflation Rate of Unemployment)を意識しながら金融政策の舵取りをしています。
NAIRUとは、「インフレを加速させない失業率」という意味。
具体的には、2~3%程度のインフレ率であればインフレは加速しません。
失業率も、ちょうどいい水準に落ち着いています。
だから中央銀行は、そこを目指して金利や貨幣量を操作するのです。

アメリカの中央銀行には、2つの使命が与えられています。
インフレ率を抑えることと、失業率を抑えることです。
そのため、常にインフレ率と失業率のバランスに注意しています。

ところが、日本銀行の場合は、不思議なことに失業率には責任を負いません。
法律上そうなっています。
どんなに失業者が増えようが、日銀には全く責任がないのです。

だから、黒田総裁以前の歴代総裁は、全員「失業は政府の責任」というスタンスをとってきました。
フィリップス曲線で、明確な相関関係が証明されているにもかかわらずです。

これがバブルの時に悲劇を生みます。
消費者物価指数が3%ちょっとだったにもかかわらず、日銀は「バブル退治」と称して強烈な金融引き締めを実施しました。
バブルだったのは土地と株だけだったのに、日銀は日本経済全体の息の根を止めにかかったのです。
失業者がどれだけ増えても責任を問われないので、どんなに無謀なこともできるのです。

その結果、日本経済は「失われた20年」という長い長いトンネルに足を踏み入れることになりました。
失業した人の中には、自殺に追い込まれた人もいました。
果たして日銀は、その人たちの痛みをどのくらい感じていたのでしょうか?

日銀の話はこれくらいにして、フィリップ曲線の相関関係に戻りましょう。
アメリカの場合、失業率を1%ポイント改善させると、インフレ率が0.1%ポイント上昇することがわかっています。
ところが、21年以降は失業率が2%改善する間に、インフレ率は2~5%も上昇しています。
経済学では、フィリップス曲線のインフレ率は、以下の3つの要素から成ると考えられています。

①インフレ予想
②失業率
③供給要因

まず①の「インフレ予想」ですが、これはとても重要な要素で、各国の中央銀行はこの「インフレ予想」に働きかける政策をメインにしてきました。
黒田日銀総裁が行った異次元金融緩和も、人々のインフレ予想を変化させるための政策でした。
今回のパンデミックでも、アメリカのインフレ予想は大して変化していません。

では、②の「失業率」はどうでしょう?
これも、「失業率が1%下がるとインフレ率が0.1%上がる」という関係は崩れていないと考えられます。
となると、残る犯人は③の「供給要因」ということになります。
でも、パンデミックは供給要因に一体どんな影響を与えたのでしょう?

アメリカでは失業手当が充実しているため、離職することのハードルはかなり低いと言えます。
そのため、今回のパンデミックでは、多くの労働者が自発的に会社を辞める、所謂「大離職」と呼ばれる現象が起きました。
離職には至らなかった人でも、在宅勤務の普及によりオフィスに出社するビジネスマンは大幅に減りました。
パンデミック前は飲食店でランチを取っていた人たちが、自宅で自炊するようになります。

これにより飲食店や交通機関などの「サービス消費」が激減し、代わって食品などの「モノ消費」が増加しました。
しかし、需要が瞬時に変化しても、供給は瞬時には変化できません。
その結果、モノ不足が生じてモノの価格は上昇しました。

その分サービス価格が下がったかというと、サービス価格は「下方硬直性」といって下がりにくい性質があります。
渡辺は、離職により供給が減ったことと、モノ需要が急増したことがアメリカのインフレの原因ではないかと推測しています。
もちろん、一人当たり200万円とも言われる日本とは桁違いのバラ蒔き政策が、需要を強烈に刺激したことも否めません。

このような需要と供給のバランスの変化は、アメリカほどではありませんが日本でも認められるそうです。
日本の場合、自発的な離職はありませんでしたが、中国のロックダウンによるサプライ・チェーンの寸断などが供給不足に拍車をかけたと思われます。
今回アメリカで起こったインフレのメカニズムは以上の通りです。

一方、日本のインフレのメカニズムはもっと単純で、円安により引き起こされたものです。
つまり、アリメカがインフレ抑制のため金利を引き上げたことにより、相対的にドルの価値が上がり、円の価値が下がりました。

円安になると輸入価格が上がるので、輸入が多い日本は当然インフレになります。

ただ問題なのは、今までの日本のインフレ水準です。
実は、日本のインフレ率は異常なまでに低い水準にありました。
IMF(国際通貨基金)が、22年4月にまとめた各国の年間インフレ率予測を見てみましょう。

トップはベネズエラで500%を超えています。
1年間で商品の価格が6倍になる計算です。
すごいインフレですよね。
以下、2位スーダン245%、3位ジンバブエ87%と続きます。
では、日本のインフレ率はどうかというと、0.984%。

なんとダントツの最下位です!
加盟192ヵ国の中の最下位ですよ。

日本と同様に自国通貨が下落した韓国でも3.95%あります。
そもそも日本は、2014年に89位になったことがあるだけで、あとはほとんど最下位グループをウロウロしています。
なぜ、こんなことになってしまったのでしょう?

その謎を解明するために、渡辺は日本のCPI(消費者物価指数)について、調査対象となる600品目を個別にチェックした、「渡辺チャート」なるものを作成してみました。
すると、驚くべき事実が判明します。
価格が据え置きとなっている品目が、全体の4割を占めていたのです。
70年代~80年代は、欧米同様2~3%上昇のところにピークがきていたので、価格据え置きが主流になったのはバブル崩壊以降と考えられます。
バブル崩壊を機に、世界に例を見ない「低インフレ予想」が定着してしまったのです。

消費者が値上げを予想していない以上、企業としても値上げはできません。
21年8月の渡辺の調査によると、「今後1年で物価はかなり上がる」と予想した人の割合は10%未満でした。
ところが、同じ時期のドイツ、イギリス、カナダなどは全て30%を超えていて、イギリスに至っては40%以上でした。
この日本特有の極端な「低インフレ予想」が、企業に強い価格据え置き圧力をかけていたのです。

「もし、いつものスーパーで価格が10%上がっていたらどうする?」という質問に対しては、上記の全ての国で「その店で買う」が60%以上なのに、日本は全く逆で「他の店に行く」が57%と多数派を占めました。
つまり、企業も店も、顧客離れが怖くて値段を上げられない状態なのです。
今、日本の消費者が享受している低価格は、企業や店の犠牲の上に成り立っているのです。

本当にこれでいいのでしょうか?
2016年に「ガリガリ君」を値上げした赤城乳業は、社長が顧客に謝罪するテレビCMを流しました。
もちろんジョークです。
ところが、アメリカのメディアはこれを真に受け、ニューヨーク・タイムズは日本の消費慣行は歪んでいるとトップ記事で報道しました。
アメリカでは、原材料の値上がり分を価格に転嫁できない経営者は、株主から無能の烙印を押されてクビになります。
ところが日本では、値上げすることがまるで悪事であるかのように、経営者が頭を下げて謝罪しています。

まさに、不思議の国ニッポン。
でも、日本の経営者が異常なのではありません。
異常なのは消費者の方です。
ところで、原材料費が値上がりしているのに、日本企業はなぜ「価格据え置き戦略」をとることができたのでしょうか?

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