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5☆s 講師ブログ

日本の労働生産性は低いのか

小西美術工藝社社長のデーヴィッド・アトキンソンは、日本の労働生産性の低さは深刻なレベルにあると指摘しています。
労働生産性とは、実質GDPを就業者数(あるいは総労働時間)で割って求めた数値。
ざっくり言うと、どれだけ効率的な働き方をしているかを示す指標です。

2018年のOECD統計によると、日本の労働生産性は加盟36ヵ国中21位。
確かにかなり低迷しています。
OECD全体の平均より18%も低く、3位のアメリカと比べると6割程度しかありません。
アトキンソンは、アメリカの労働生産性が高いのは経営者が優秀だからと絶賛しますが、本当にそうでしょうか?

日銀前副総裁の岩田規久男が、『日本型社会からの脱却』でこの問題を分析しています。

アメリカでは、法律上労働者を簡単に解雇することができます。
だから、片っ端から従業員の首を切れば、労働生産性はすぐ上がります。
つまり、アメリカの労働生産性が高いのは、従業員の首を切りまくった結果と言うこともできるのです。

このように、各国の労働環境が労働生産性に与える影響も無視できないのです。
ちなみに、労働生産性がダントツに高いのはアイルランド。
でも、アイルランドが何か特別な生産管理システムを採用しているかというとそんなことはありません。

実は、経済学の観点から言うと、「労働生産性」を効率的な働き方を測る指標とするには無理があるのです。
というのは、それぞれの国の労働生産性を国際比較する時、2つの大きな問題点が存在しているからです。

1つ目は為替レート。

2019年を例にとって見てみましょう。
この年、日本の実質GDPは536兆円。
これを20年9月初め頃のドル円レート、1ドル=106円でドル換算すると約5兆ドルとなります。

でも、これを円高だった2012年頃のレート(1ドル=75円)で計算すると約7兆ドルになります。
為替レートが変わっただけで、実質GDPも労働生産性も1.4倍になってしまいました。
生産性を上げる努力をしなくても、為替レートが円高になれば労働生産性は自動的にアップします。

そのため国際比較する際は、「相対的購買力平価」を使うのが一般的です。
これは基準となる為替レートに、自国の物価と相手国の物価の変化を考慮して調整を加えたものです。
一見公平そうに見えますが、問題なのは基準となる為替レートです。
基準として用いられているレートは、1973年4月~6月期の平均である1ドル=265円。
とんでもない円安ですよね。

こんな実勢と遥かにかけ離れたレートで計算されて、日本の労働生産性の低さは深刻だなどと言われても納得できませんよね。
アトキンソンは、このカラクリを知っているのでしょうか?

為替レートの問題もさることながら、2つ目の問題点はもっと根本的なものです。

それは、そもそも各国の労働生産性を比較することに果たして意味があるのかということです。

何だか元も子もない話になってきましたが、どういうことかと言うと、結局のところ景気によって変動する「実質GDP」を測っているに過ぎないのではないかと指摘されているのです。

例えば、衣料品店を考えてみましょう。
店員が1日8時間働いていた時の売上げが1万円だとすると、1時間当たりの労働生産性は1,250円です。

ところが、景気がよくなって来店客が増え、売上げが10万円になったとしましょう。
すると、労働生産性は一気に10倍の1万2,500円にハネ上がります。
客が増えたことで確かに店員は忙しくなったでしょうが、店員の販売技術が向上したとか、働き方が効率的になったとかというわけではありません。
つまり、労働生産性が高いか低いかを決める決定的要因は景気なのです。

実際に、1980年からバブル崩壊が始まる91年までを見ると、日本の労働生産性は年平均で3.6%上昇していました。
ところが、バブルが崩壊した92年から97年の上昇率は年平均2%に下落します。
97年に消費税率が3%から5%に引き上げられると景気は悪化の一途を辿り、97年から07年の上昇率は1.4%。
さらに、07年から12年はリーマンショックの影響で0.7%にまで低下しています。
この期間に、日本の労働者の働き方が急に非効率になったわけではありませんよね。
以上から、「供給サイド」から労働生産性の問題を考えるのは無理があると言わざるを得ません。

そもそも労働生産性を決定する供給サイドの要因としては、労働や資本、技術、知識などが挙げられますが、これらは全て短時間で大きく変化するようなものではないのです。

デーヴィッド・アトキンソンは、「企業数を減らして供給量を減らせば、デフレは止められる」と主張しますが、マクロ経済学では実質GDPの需要量に合わせて供給量を減らすことは、実質成長率がマイナスになることを意味します。
会社の場合は、リストラして従業員数を減らせば、コスト削減となり業績にはプラスに働きます。

しかし、日本全体で見ると、失業者が増えることはマイナス材料でしかありません。
個々の企業というミクロ経済にとってはプラスの出来事でも、多くの企業が行うとマクロ経済にとってはマイナスの出来事となるのです。
そもそも企業数を減らすことは、失業者を増やすことに他なりません。

失業者が増えて経済が回復するなんてことが、あるはずありませんよね。
子供でもわかる理屈です。

日本には、マクロ経済学の基礎知識がない「似非経済評論家」が多すぎます。
でも、それよりも問題なのは、マスメディアの経済記者がマクロ経済学の「ド素人」であることです。
メディアのチェック機能が働かないため、このような「トンデモ経済論」が堂々と掲載されてしまうのです。

いくら日本には言論の自由があると言っても、「霊は存在する!」とか、「宇宙人を見た!」などという論文が、科学誌に掲載されることはありません。
科学誌や新聞の科学面は、科学リテラシーのある記者がチェックしているからです。

ところが、経済誌や新聞の経済面となると、完全に“無法地帯”です。
深刻なほど低レベルにあるのは日本の労働生産性ではありません。
経済記者の経済リテラシーです。

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