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5☆s 講師ブログ

人望力(1)

2020年4月、世界中が新型コロナのパンデミックに陥っていた時、全長333メートルを誇るアメリカ海軍の巨大空母「セオドア・ルーズベルト」で感染者が発見されます。
当時この空母は、南シナ海で中国海軍を牽制するという任務を遂行中でした。
船内で感染者が出るとどんなことになるかは、既にクルーズ船での事例で学習済み。
一刻も早く乗組員を退艦させないと、5千人の命が危険に晒されることになります。

しかし、艦は作戦行動中なので勝手な離脱は許されません。
もし、あなたが艦長ならどのような判断を下しますか?

もちろん、自分では判断しないで、上司の指示を仰ぐのがベストではあります。
これなら、もし万一死者が出たとしても、あなたの責任が問われることはないでしょう。
あなたの経歴に傷がつくこともありません。

しかしその一方で、あなたが部下から人望を得る機会は永遠に失われてしまいます。
セオドア・ルーズベルトの艦長ブレット・クロージャー大佐が最初に思い浮かべたのは、直属の上司である第9空母打撃軍司令官スチュアート・ベイカー少将の性格でした。

柔軟性に欠けるところがある少将の口癖は、「面倒は起こすな!」。
おそらく乗組員の退艦は許可はしないでしょう。
となると大規模な感染が起こり、最悪の場合死者が出るかもしれません。

そうは言っても、もしこの船が作戦から離脱してしまうと、南沙諸島の不安定感はますます増すことになります。
しかし、戦闘中に命を落とすならともかく、単なる作戦行動中に犠牲者が出るのはどうしても納得がいきません。
迷った挙げ句、艦長は上官を飛び越えて3人の将官と7人の海軍大佐にこんなメールを送ります。

「乗組員の命を守るため、艦を維持する最低限の人員以外の全員を陸上で隔離すべきである」

結果はどうなったかというと、2日後にはほとんどの乗組員がグアムに上陸することができました。
しかし、その代償としてクロージャーは艦長の任務を解任されてしまいます。

確かに空母が作戦から離脱した直後には、中国海警局の船がベトナム漁船に衝突し沈没させるという事故が起こりましたが、戦争が始まったわけではありません。
結果的に、乗組員の命を優先させた艦長の判断は正しかったわけです。
艦長は、自分の首を懸けて部下の命を守ったのです。

多くの乗組員は、解任されたクロージャーを惜しみ、艦長が退艦する時には「キャプテン・クロージャー!」と連呼しました。
その様子が動画サイトに投稿されると、アメリカのみならず世界中で議論が沸き起こります。

波紋は予想外の広がりを見せました。
メンツを潰された形のトーマス・モドリー海軍長官代行は、艦長を「愚か」と評しましたが、この発言に乗組員が一斉に反発したためモドリーも解任に追い込まれてしまいます。

実は、艦長の行動は解任を覚悟の上でのものでした。
それはメールの文面からも明らかです。

「自分の経歴への影響は関係ない。助けを求めるのは今だと信じている」

企業の不祥事の原因は色々ありますが、そのひとつに管理職が自分の出世に影響することを恐れるあまり、不祥事に手を染めてしまうケースがあります。
とりあえず上司の判断を仰いでいれば、どのような結果になろうとも責任を上司に転嫁できます。
自分の出世への影響を最小限に抑えることができます。
実は、この「誰が責任をとるか」という問題は「人望」と密接な関係があるのです。

作家の瀧澤中はこの話を聞いた時、1944年(昭和19年)のインパール作戦の陸軍中将・佐藤幸徳を思い出したと著書『人望力』の中で述べています。
佐藤の上司で、ビルマ方面軍のひとつである第15軍の司令官・牟田口廉也中将は、「人望のないリーダー」の典型として広く知られている人物。

インパール作戦とは、ビルマ(現在のミャンマー)から3つの師団が兵を進め、インドのインパールにあるイギリス軍基地を急襲しようというもの。
しかし、その移動距離は直線距離にしてなんと最大190キロ。

その上、途中には富士山並みの高山が連なるアラカン山脈や、広いところでは川幅が600メートルもあるチンドウィン河が横たわっています。
しかも、現地は猛烈な雨を降らせるモンスーン帯にあり、マラリアをはじめとする疫病の巣窟でもあります。

牟田口は、途中で食料がなくなったら銃弾や兵糧を運搬している牛馬を殺処分し、食料に充てればよいと考えました。
人呼んで「ジンギスカン戦法」。
そして、それも尽きたなら、敵を急襲して食料や弾薬を奪えばよいのだと。

しかし実際には、チンドウィン河を渡る際、牛馬の大半が流されてしまいます。
ようやく攻略に成功したインパールの北のコヒナでも、イギリス軍の食料や弾薬はすでにガソリンで焼き払われた後でした。
この作戦が机上の空論であることは、最初から誰の目にも明らかでした。

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