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5☆s 講師ブログ

勤労は義務か?(4)

 

大失業時代を乗り切る方策として、「ワーク・シェアリング」という制度を提案する人もいます。
1人でやっている仕事を2人でシェアすれば、企業は2倍の社員を雇うことができます。
例えば、フルタイム勤務者をすべて週2~3日勤務のパートタイマーに切り替えてしまうのです。
多くの企業でこれを実施すれば、失業率を大幅に引き下げることができるでしょう。
しかし、労働時間が半分になるわけですから、当然給料も半分になります。

すなわち、国民の大半が低所得者になるわけです。
確かに「国民みんなが平等に貧しい」状態でも、「平等意識」を維持することはできるでしょう。
でも、望ましいのは、できるだけ「みんなが豊かで平等」なことです。

それを実現する方法が、一つだけあります。
国が国民全員に一定額のお金を配ることです。
フルタイム勤務であろうがパートタイマーであろうが、あるいは失業者であろうが、とにかく差別することなく一律に配るのです。

これを「ベーシック・インカム」制度と言います。
なぜ、そんなことをするのかというと、国民の購買力を維持するためです。

考えてもみてください。
企業がAIとロボットを使って、安くて品質のよい製品をたくさん作ったところで、国民が貧しければその製品を買うことはできません。
世界中どこの国も低所得者と失業者で溢れかえっているわけですから、どこの国に輸出しようと製品は売れません。
結局、その企業は潰れてしまいます。

企業というのは、国民がその製品を買うだけの購買力を持っていて、はじめて生き残ることができるのです。
企業は自らの努力によって利益を稼ぎ出したわけですが、だからと言ってその利益を企業が独占してしまうと、長期的に見ると自分で自分の首を絞めることになります。
だから、「狩猟民族」が仕留めた獲物を集団の構成員に分配したように、企業も稼いだ富の一定部分を国民に分配しなければならないのです。
そうしないと集団はどんどん貧しくなり、やがて集団そのものが消滅してしまいます。
この「ベーシック・インカム」こそが、大失業時代やワーク・シェアリング時代においても、豊かで平等な社会を維持していく唯一の方法なのです。

ところで、ここで問題になるのは、ベーシック・インカムの財源をどこから調達するかということです。
もちろん、調達手段は税金しかありません。
ですので、現在行われているような、法人税のディスカウントなどはもってのほか。
でも、法人税の税率をアップさせるだけで、ベーシック・インカムの財源をすべて賄うことはできません。

そこでビル・ゲイツは、「ロボット税」なるものを提唱しました。
企業がロボットを導入するのは、人間を雇用するよりランニング・コストが安いからです。
だから、ロボットを導入することで節約できたお金の一部を、税金として国に納めさせようというのです。
なかなか魅力的なアイデアでしょ。

でも、鈴木貴博の提案はもっと強烈です。
すべてのロボットを一旦国が買い上げて、国有財産として登録します。
そして、それを企業に貸し出す形にして、企業からレンタル料を徴収するというスキームを提案しているのです。
もちろん、IT企業の経営者は猛反対するでしょうが、その理由はお馴染みの「競争に負けてしまうから」です。
でも、もうおわかりですよね。
前回お話ししたように、経営者が心配しているのは日本が競争に負けることではなく、自分の企業が競争に負けることです。
だから、もし日本がロボット税やロボット国有化制度などを導入したら、その企業は躊躇なく日本を出て行くことでしょう。
別に非難されるべき話ではありません。

実際問題、日本の相続税は高すぎるという理由で、節税のために住民票を海外に移してしまった富裕層は掃いて捨てるほどいるではありませんか。
「自分が収穫した富はあくまで自分のものであり、税金で取られるのはバカバカしい」、という考え方なのでしょう。
ただ正確に言うと、そもそも相続財産というのは「自分が収穫した富」ではなく、「親が収穫した富」のはずですが・・・。
「ベーシック・インカム」の議論になると、決まって「勤労義務」や「道徳」の観点から否定的な意見を述べる人が出てきますが、富を独り占めしている高所得者たちの方は一体どうなるのでしょう。
大変不思議なことですが、相続税を払いたくないと金融資産を海外に移し、自分も海外で遊んで暮らしている人たちの「勤労義務」や「道徳」の問題を論じる人を見たことがありません。

とにかく、AI・ロボット時代の到来で問われるのは「勤労義務」や「道徳」などではなく、私たちの「平等意識」の方です。
それも、「みんな貧しく平等」ではなくて、「みんな豊かで平等」でなければなりません。
日本の社会にはすでに大きな格差が生じてしまっていますが、高所得者層が国際競争力を高めるためならば、格差がもっと拡大してもかまわないと考えるのか。
それとも極力格差を縮小させて、多くの国民がモノを買えるだけの購買力をつけることが大切と考えるのか。
言い換えると、一握りの高所得者層と、膨大な数の低所得者層に二極分化することをやむを得ないと考えるのか。
あるいは、高所得者層の富を削ってでも、中間層をできるだけ増やしていく方向を目指すのか。

AI・ロボット時代に危機に立たされるのは、私たち日本人の「平等意識」なのです。

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