株式会社ファイブスターズ アカデミー
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「α崩壊」を説明するために、ある殺人事件を紹介します。
2006年イギリスで、KGBの後継組織であるFSB(ロシア連邦保安庁)の職員だったリトヴィネンコという男が、「ポロニウム」という放射性物質によって暗殺されました。
その後の調査で、イギリスはロシアの元KGB職員を犯人と断定し、身柄の引き渡しを求めました。
しかし、ロシア側が拒否し続けて現在に至っています。
リトヴィネンコは、FSBの一部の幹部が組織を政治的脅迫や殺し屋などの犯罪に利用していると、長官に直訴した人物です。
ところが、長官に無視されたため記者会見を開いて暴露してしまいました。
そのため当局に一時拘束されてしまいますが、後にイギリスに亡命し、その亡命先で暗殺されたわけです。
ちなみに、当時のFSB長官の名前はウラジミール・プーチン。
さて、暗殺に使われたのは、遺体解剖の際大量に検出された「ポロニウム210」という同位体だろうと考えられています。
ポロニウムの原子番号は84。
ポロニウム210は不安定なため、質量数を4だけ減らして206になろうとする性質があります。
質量数を4減らすためには、[陽子2+中性子2]を外に放出する必要があります。
[陽子2+中性子2]というと、前回勉強した「ヘリウム4」ですよね。
つまり、ヘリウム4を放出するのです。
質量数が4減ると、原子番号は84から82に変わります。
原子番号82は「鉛」。
簡単に言うと、ポロニウムが鉛に変わるというわけです。
このヘリウム4が放出される現象が「α崩壊」です。
この時放出されたヘリウム4の原子核、あるいは放出されたヘリウム4の原子核が飛んでいる状態を「α線」と呼びます。
ポロニウムはとても危険な物質のように感じますが、アメリカではレコード盤の埃を取るための、静電気除去ブラシの中に組み込まれて普通に売られているそうです。
「そんなバカな!」と思いますが、体内に入らない限り重大な事態には至らないのだそうです。
いかにもアメリカらしい、随分とおおらかな話ですよね。
後で詳しく述べますが、実は放射性同位体というのは、私たちの身の周りの至るところに存在しています。
ちなみに、「γ線」を放出する「γ崩壊」というのもあります。
陽子と中性子を結びつけるエネルギーが強すぎて、過剰なストレスが加わっている時に、余分なエネルギーが光(電磁波)として放出されるのだそうです。
X線もγ線と同様に、粒子を放出することなく放射線を出します。
これも、詳しく知りたい人は専門書を読んで下さい。
話を最初の「β崩壊」に戻しますね。
「β崩壊」とは電子が飛び出すことでした。
電子はどこにでも、それこそ私たちの体にも存在しているわけですが、なぜ飛び出す電子が危険なのかと言うと速度を持っているからです。
どんなモノでも速度を持つと危険物になる可能性があります。
例えば、スマホは危険物ではありませんが、人に向かって投げつけると危険物になります。
トリチウムから放出される電子が危険なのは、速度を持っているからです。
速度を持った電子は、人間の体内にある水分子と反応して「活性酸素」を発生させます。
この活性酸素は、細胞を傷つけるなどの悪さをしてガンを誘発します。
なんだ、やっぱりトリチウムは危険な物質じゃないかと早合点してはいけません。
トリチウムのβ線のエネルギーは極めて弱く、紙一枚で簡単に防ぐことができます。
ただ、トリチウムが厄介なのは、別の化合物になった時です。
その化合物とは「水」です。
さあ、ここからが本題の「トリチウム水」の話です。
水の化学式がH2Oであることは誰でも知ってますよね。
H2Oとは、O(酸素)の原子に、H(水素)原子が2個くっついていることを表しています。
「トリチウム水」は、2個あるはずのH(水素)原子のうち、1個が「三重水素(トリチウム)」に置き換わっている状態です。
だから、H2Oではなく「HTO」と表記します。
でも、化学的には水とほぼ同じなので、ALPSという超優秀な装置をもってしても除去できません。
トリチウムは、原子炉の通常運転でも生成されています。
そのため、どこの国の原発も、水で薄めて排水基準以下の濃度にしてから捨てています。
ここが大事なところです。
危険性のある物質かどうかが問題なのではなく、重要なのはその物質の「濃度」です。
そうです。
すべては濃度が問題なのです。
ALPS処理水も、トリチウム濃度が基準値を下回るレヴェルまで海水で薄めてから放出しています。
世界保健機関(WHO)によると、飲料水に含まれるトリチウムの安全基準は1リットル当たり1万ベクレル以下です。
放出後、福島沖でトリチウムが検出された場所がありましたが、1リットル当たり10ベクレル前後でした。
十分すぎるほど低い濃度ですよね。
ちなみに、他の場所ではあまりに濃度が低すぎて検出できませんでした。
実は、私たちの街の下水処理施設だって、あらゆる化学物質を完全に取り除いてから放出しているわけではありません。
全ての化学物質が基準値を下回るレヴェルだから、問題ないだろうということで放出しているにすぎないのです。
繰り返しますが、注意すべきなのは「濃度」です。
もし、危険かどうかだけで判断するなら、食卓にある「醤油」だって極めて危険な物質です。
なぜなら、一年分の摂取量を一度に飲めば人は必ず死ぬからです。
しかも、トリチウム水の場合は組成が水とほぼ同じなので、すぐに体の外に排出されてしまいます。
福島の海で獲れた魚を食べ続けると、体内にトリチウムが蓄積するかもしれないと言った“ド文系”学者がいましたが、この人はトリチウムのことを、水俣病の原因である水銀と同じように、「金属」だと思っているのではないでしょうか。
私でさえ理解できたのですから、少なくともこの程度のことはちゃんとお勉強してから発言すべきです。
ところが、このALPS処理水の放出に関して、もっと凄い、まさに驚天動地とも言うべき評論がありました。
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