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5☆s 講師ブログ

ジャコと呼ばれた天才(2)

絶頂の真っ最中に転落のルートが始まります。
きっかけはドラッグでした。

ジャンキーとなったジャコに、妻から突然の離婚訴求。
ついには、ウェザー・リポートを辞めざるを得ない事態にまで追い込まれます。

心機一転、新たに結成したグループ名は「ワード・オブ・マウス」。
若き日のように、自分の噂が人から人へと口伝えで広がることを期待してのものでした。
しかし、人々が話題にしたのはジャコの演奏ではなく、奇行の方でした。

最後の来日となった84年の広島。
コンサートの前に街を散歩していたジャコは、通りかかった池に、言葉では言い表せない神聖なものを感じます。
次の瞬間、捧げ物をしなければという強迫観念に襲われ、持っていたエレクトリック・ベースを池に投げ入れてしまいました。

慌てて拾い上げる関係者。
しかし、ベースはすでにオシャカ状態でした。
その後スタッフは、代わりのベースを探して東奔西走する羽目に。

直後のイタリア・ツアーでは、ホテルのバルコニーからぶら下がっているうちに落下。
それでも、肋骨骨折だけで済む辺りはやはり天才のなせる技か。

バークリー音楽院を主席で卒業した山中千尋(ピアノ)は、学院に代々語り継がれるジャコの武勇伝を耳にします。
すでに神様扱いされていたジャコは、雇われてもいないのにふらりと教室に現れます。

彼のレッスンを受けたい生徒たちが、まるで信者のようにジャコの周りに群がりました。
ジャコは全員を大きな教室に集めると、ひとり20ドル払うよう告げます。
全員がなけなしの金を払ったのを見届けると、生徒たちの顔をぐるりと見回してこう切り出しました。

「オレの大事なレッスンとはだな・・・」
固唾を飲んで次の言葉を待つ生徒たち。
「レッスンを受ける前に金は払うな、ということだ」

そのまま、大股でゆっくりと教室を出ていくジャコ。
その背中を見送った時、生徒たちはそれが人生のレッスンだったことを知らされるのでした。

再婚にも失敗。
ドラッグ、アルコール、そして喧嘩の無限ループを繰り返すミュージシャンに、再びスポットライトが当たる機会はなかなか訪れません。
ベースも弾かず、演奏中に居眠りするベーシストを雇うバンドもありません。
タクシーに無賃乗車し、運転手に殴り倒されたこともありました。

それでもジャコは言い続けました。
「オレは天才だ」
「オレは世界一のベーシストだ」
友人を見つけた時の口癖は「5ドル貸してくれよ。なあいいだろ。ジャコ・パストリアスが頼んでるんだぜ」。

ドラッグ代を稼ぐため、路上で自分のレコードを売ったこともあります。
もちろんレコードは友人の家から盗んだもの。
強引にジャコをベルヴューの精神病院に送り込んだ友人たちも、櫛の歯が抜け落ちるようにひとり二人とジャコの元から離れていきます。

ワシントンスクェアのペンキの剥げ落ちたベンチが、ジャコの定宿になるまでそれほど時間はかかりませんでした。
世界一の天才ベーシストは、気がつけばホームレスに身を窶していたのです。

惨状を見かねたかつてのガール・フレンドが、ジャコの母親が待つフロリダに連れて帰るのですが、トラブルはすでにジャコのライフワークとなっていました。
サンタナのライヴに無断で飛び入りしようとして制止された翌日、今度は泥酔状態でナイト・クラブへの入店を試みます。

ジャコにとって予想外だったのは、クラブの用心棒に空手の心得があったこと。
乱闘の末、コンクリートにしたたか頭を打ちつけてしまいます。

すぐに病院に運ばれましたが、そのまま植物状態に。
10日後、親族による話し合いの結果、ジャコの人工呼吸器が外されることが決まります。
直接手を下したのは父親のジャック。
一体どんな気持ちだったのでしょう。

享年35。
ジャコの予想に反して、キリストよりは少しだけ長生きできましたが、それにしても“天才”と呼ばれる人間はなぜこんな破滅的な生き方しかできないのでしょうか。

初めて親となった19歳のジャコが立てた二つの誓い。
「全存在を音楽に捧げ、責任ある人間として生きる」

どうやら神様は、両方を実現させてあげるほど寛容ではなかったようです。

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