株式会社ファイブスターズ アカデミー

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5☆s 講師ブログ

しない経営(1)

社員「社長はAとおっしゃいますが、データを見る限りBですよ」
社長「そうか。じゃあBだな」

これは、会長から一流人材の育成を命じられた新米専務が、最初に理想としてイメージした社員像です。
一言で言うと「行動原則にデータを置く会社」。
新米専務とは、職人の作業服を販売するワークマンに招かれた土屋哲雄。
土屋は東大卒業後三井物産で辣腕を奮い、次々に子会社を立ち上げたモーレツサラリーマンです。

でもワークマンでは、2年間は人材育成以外のことは何もするなと会長から釘を刺されます。
なぜなら、ワークマンという会社には、「しない経営」が根付いていたからです。

驚くべきことにノルマや短期目標はもちろんのこと、仕事の期限もありません。
当然残業もありません。

それどころか、経営者や幹部はほとんど出社しません。
幹部が思いつきのアイデアを口にすると、部下のムダな仕事が増えます。
だから、幹部は毎日のように現場に足を運び、調べたいことがあれば自分で調べるという行動が徹底しているのです。

本部だけではありません。
フランチャイズの加盟店は顧客管理もしなければ、閉店後のレジ閉めもしません。

もっと驚くのは、供給メーカーであるベンダーへの発注書がないことです。
というのは、納品する数量を決めるのはベンダーだからです。
前代未聞のシステムですが、これには理由があります。

サプライチェーンは、上流にいくほどたくさんの情報を持っています。
長年取引しているベンダーは、ワークマン以外の企業にも製品を納めているので、ワークマンよりずっと多くの情報を持っています。
もちろん、ワークマン全店の販売データや、在庫データを見ることも許可されています。
だから、ベンダーはワークマンが開発した「需要予測システム」も参考にはしますが、最終的にはベンダー自身の判断で納品数を決定するのです。

そして、ベンダーが決めた納品数の全量を、ワークマンはそっくりそのまま買い取ります。
あくまで、多くの情報を持っている上流の判断を尊重するということです。

同様に、フランチャイズの加盟店よりも、その上流にあるワークマン本部の方が情報をたくさん持っています。
だから、多くの加盟店は仕入れを決める際には、本部が推奨するプランを信用して「一括発注ボタン」を押すのだそうです。
ここまで、「任せきり」の経営は聞いたことがありません。

ただ、見落としてならないことは、権限を持つ上流側の人間が、過剰在庫や欠品が生じないよう最大限考慮して、悩みに悩み抜いた上で数字を決定しているという事実です。
土屋はこれを「善意型」サプライチェーンと呼びます。

従来のサプライチェーンは、中心にいる会社の都合で全てが決まっていました。
ベンダーはいつ注文が来てもいいように、納品先の近くに倉庫を建てて、かなりの量の在庫を抱えなければなりませんでした。
皺寄せは全てベンダーに押し付けられていたわけです。
土屋はこれを「ムチ」のサプライチェーンと形容します。

相手を決して裏切らないというワークマンのポリシーは、顧客に対しても同じこと。
粗利益率の高い商品はあえて扱いません。
また、値引き販売をすると得したり損したりする顧客が出てしまうのでこれも一切やりません。

「善意」の輪は、当然加盟店にも広がります。

閉店後にレジ閉めをしないのは、残業が発生してしまうからです。
レジ精算は2時頃に済ませ、閉店後はレジの引き出しをそのまま金庫に保管します。
その日の売上額を正確に把握することよりも、加盟店で働く人が少しでも早く帰ることの方を優先したのです。

現代の企業はコストや効率化を可視化するために、様々な経営指標に関する実績数値の把握を求めます。
そのため、現場の人間が報告業務に振り回されてしまうこともしばしば。
でも、そのシステムのおかげで利益が出たとしても、そこで働いている人たちは果たして幸せでしょうか。
そうやって稼ぎ出した利益の大半は、株主に還元されてしまうのではありませんか?

「会社は誰のものか?」と問われれば、答えは簡単です。
会社は間違いなく「株主」のものです。

でも、「会社は誰のためにあるか?」と問われると、答えは簡単ではありません。
従業員や経営者、それに取引先や顧客など全てのステークホルダーが関係してきます。
会社の利益を生み出しているのは、会社に関係している「人」です。
株主が利益を生み出しているわけではありません。

ワークマンは、株主よりも「人」の方を大切に考えました。
常に相手のことを思いやる、「善意」で繋がる経営。
会長が「2年間は何もするな」と土屋に命じたのは、この文化を絶対に壊すなという意味でした。

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