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5☆s 講師ブログ

コロナ報道は適切だったのか?

*「ロボットは東大に入れるか(3)」は来週アップします。

新型コロナウイルスが流行し始めた時、マスメディアが盛んに喧伝していたのが「正しく恐れる」。
ところが、緊急事態宣言が出る頃には科学的な知見など雲散霧消してしまいました。
特に、科学的知見の出る幕がなかったのがPCR検査です。
PCR検査は100%正確ではないことは医療関係者が伝えていましたが、私たち素人はそれでも95%くらいの精度はあるのだろうと思っていました。

しかし、実際のPCR検査の「感度」、すなわち感染者を正しく「陽性」と判定できる確率は、どんなに高くてもせいぜい70%だそうです。
ということは、30%は見逃してしまうということです。
だから、退院の条件は2回続けて「陰性」であることだったのです。
「そんなに精度が低いのか」と思ってはいけません。
3月にスペインやチェコに送られた、中国製の簡易検査キットの感度は30%しかありませんでした。
ですので、PCR検査はかなり優秀な方と言えます。

でも、「感度」よりもっと大きな問題があります。
「感度」は、感染者を正しく「陽性」と判定する確率のことですが、逆に感染していない人を正しく「陰性」と判定できるかどうかも重要になります。

こちらは「特異度」と言います。

PCR検査の「感度」については30~70%といろいろな説がありますが、「特異度」に関しては医療関係者の見解は90%でほぼ一致しています。
ということは、10%は誤って陽性という「濡れ衣」を着せられる人が出てくることになります。
これを「擬陽性」と言います。
国民の大部分が感染者ならどんどん検査をやった方がいいのですが、感染していない人の方が圧倒的に多い場合は、「擬陽性」の濡れ衣患者の数が爆発的に増えてしまいます。

「陽性」と判定された人が本当に感染している、つまり「真陽性」である確率のことを「陽性適中率」と言いますがこれは割り算で求められます。
「真陽性」が分子、「真陽性」+「擬陽性」が分母になります。
ただし、この値は「検査前確率」といって、検査する前の対象者のうち本当に感染している人が何%いるかによって変わってきます。

今「感度」70%、「特異度」90%として、「検査前確率」が10%の場合の「陽性適中率」を計算してみましょう。
計算を簡単にするために検査対象者を100人とすると、感染者は10%なので10人となります。
そのうち、正しく「陽性」と判定されるのが70%ですから7人。
これが「真陽性」です。
3人見逃してしまいましたが、それは大した問題ではありません。

問題は感染していない人たちです。
非感染者は90人いますが、「特異度」90%ですから、残りの10%は「擬陽性」つまり「濡れ衣」患者となってしまいます。
90人のうちの10%ですから「擬陽性」は9人。
では、「陽性適中率」を求めてみましょう。
7/(7+9)=0.4375で、約44%。

つまり、「陽性」と判定された人のうち半分以上は「濡れ衣」を着せられた人たちです。
検査対象を無闇に拡大すべきでないという理屈がおわかりいただけましたか。

医師たちが作るオンライン医療辞典サイト『MEDLEY』では、コロナウイルスを持っている人が日本に2.4万人いると仮定して、全ての日本国民を検査した場合の「陽性適中率」を計算しています。
なんと0.02%です。
ということは、「陽性」と判定された人の99.98%は「濡れ衣」ということになります。

「希望者全員に検査を受けさせろ」と主張した人がいましたが、これははっきり言って暴論です。
もし検査数をどんどん拡大していくと「濡れ衣」患者が多くなり、その状態で「陽性」者全員を入院させてしまうと病院がパンク状態になります。
すると、重症患者が入院できなくなると同時に、「濡れ衣」の人が病院内で本当に感染してしまう可能性も出てきます。
検査を数多くこなしていた国では実際にこのような事態に陥り、結果として死者が増えてしまったのです。

これが医療崩壊です。
医療崩壊というのは、感染者が急増することだけでなく、「濡れ衣」患者が急増することでも起きるのです。
そこで、一定数の「擬陽性」が出ることを考慮に入れて、軽症や無症状の人は病院ではなく、別の施設に収容するという分離方法を採用したのが韓国です。
これは有効でした。
後に東京都も民間ホテルの協力を得て同様の体制を整えましたが、本来ならばもっと前に政府が先手を打って手配しておくべき話です。

でも地上波のテレビで、この「感度」「特異度」「検査前確率」「陽性適中率」についてキチンと解説した番組は皆無でした。
「陽性適中率」は、足し算と割り算さえできれば小学生でも簡単に計算できるのに、なぜ地上波テレビはスルーしたのでしょう。
ネット記事でも詳しく触れていたのは、私の知る限り嘉悦大学教授の高橋洋一と医療ジャーナリストの鳥集徹だけでした。
「正しく恐れる」などと言っておきながら、地上波テレビでは感染症の「専門医」の認定を受けていない医師が次々出演しては、私見を思いつくままに主張していました。

さらには、「医師」でも「薬剤師」でもない、つまり医療現場とは全く無縁の大学教授が「とにかく検査数を増やせ」と強硬に主張しましたが、司会者から検査の精度について聞かれたら急に困り顔になって、「どうなんでしょう?」と隣に座るクリニックの医師に振ってしまいました。
その医師は「検査で黒と出たら黒なんです!」と決めつけていましたが、果たしてこの2人は「陽性適中率」に関する正確な知見を持っていたのでしょうか。

この教授は、「私が聞いた話では」と前置きして、国立感染症研究所のOBが検査結果を独り占めしたいがために検査数を絞りこんでいるのだという根拠のない噂話を披露し、同席していたコメンテーターが「野党は国会で追及してください!」と絶叫する場面もありました。
これにより、多忙を極めていた国立感染症研究所が、わざわざ噂を否定するコメントを発表せざるを得なくなりましたが、この非常時に余計な仕事を増やしてしまうのはいかがなものかと思います。

そもそも、大問題になりかねない噂話であることを十分承知の上で、敢えて公共の電波で流すというのはフェイク・ニュースに当たるのではないでしょうか。
あるいは、「ワイドショー」は報道番組ではなく所詮“ショー”なのだから、この程度の演出は許されるという解釈なのかもしれません。

私たち素人は、「医学博士」という肩書きを目にすると、みんな専門家だと思ってしまいます。
でも、博士と言ってもピンキリ。
信頼に足る博士かどうか、どうやって判断したらいいのでしょう。
科学者たちはまず、その人が発表した論文の数を見るそうです。
論文は必ず専門家の査読を受けますので、レベルの低い論文は通りません。
時折「著書多数」などと紹介している番組がありますが、本は専門家の査読を受けないので基準にはなりません。
オカルト研究家だって本を出版できるのですから。

今回問題になった教授は、20年以上論文を書いていない上、その大昔に書いた論文も上司から取り下げを勧告されるほど不自然な実験数値が並んでいたと、後に週刊誌で暴露されました。

なぜ地上波テレビはこんな人をコメンテーターに起用し続けたのでしょう。
答えはただひとつ。

数字が取れるから!

でも、視聴率さえとれれば専門家でなくてもいいのでしょうか。
私は、地上波テレビは出演するコメンテーターを決める際は、その専門性に関する客観的な基準を業界内で話し合って統一し、視聴者に開示するべきだと思います。
そうすれば、「テレビだから爪跡を残さなければ」という、炎上覚悟の目立ちたがりを排除することができます。
少なくとも「正しく恐れる」を標榜するのであれば、その分野の専門家から認知されている、高い見識を持った人をコメンテーターとして起用するのは当然ではないでしょうか。
たとえ視聴率がとれなかったとしても、正しいことをチキンと伝えるのは公共の電波を使う者の使命のはずです。

でも、この検査騒動で興味深かかったのは、大量に検査を受けさせるべきかどうかの論点に関して、民放でも局によってスタンスが違っていたことです。
ネットはフェイクニュースが多いと批判するのなら、マスメディアだって自身が伝えた内容に関して、第三者機関を入れて詳細な事後検証をするべきです。
特に、報道が社会不安の引き金となった可能性に関しては、徹底的に検証するべきです。

「新宿会計士の政治経済評論」というサイトが、実に面白い話を紹介しています。
政府の緊急事態宣言は4月7日夕刻に出されましたが、その日の朝5時に、ある大手新聞社のウェブサイトに「♯東京脱出」という単語が含まれる記事が掲載されました。
同じ頃家庭に配達された新聞にも、このワードが載っていました。
これを見た外国の新聞社もこの関連記事を配信します。

ところが、「Yahoo!リアルタイム検索」で見ると、「東京脱出」というツイートは、ネット記事がアップされた5時台では4件、6時台でも8件しかないのです。
これが9時台になると2,500件を突破します。
縦軸にツイート数、横軸に時間をとったグラフがサイトにアップされていましたが一目瞭然でした。
このグラフを見る限り、「東京脱出」というキーワードを広めた張本人は、新聞社自身だったと言われてもしようがありません。

私は、今回のトイレット・ペーパー騒動も、マスメディアの演出によって引き起こされた可能性があると思っています。
ある日、視聴者の投稿と思われる、商品棚が空っぽになった写真がニュースでオンエアされましたが、この映像がトイレット・ペーパー騒動の引き金になったのではないでしょうか。
中には、オイルショックの時に人々がペーパーの棚に向かって一目散に走る、あの衝撃的な映像をわざわざ流した局もありました。

この検証は簡単です。
縦軸にペーパーの販売数、横軸に時間をとったグラフを作ります。
スーパーやコンビニのレジは、バーコードを読み取るPOSシステムを採用していますので、販売時間帯別にペーパーの売上数や売上金額を把握することはすぐできます。
このグラフを作れば、放送前と放送後でペーパーの販売数量がどう推移したのか一目でわかります。
もしかしたら、マスメディアが社会不安の誘発に寄与したという事実がはっきりするかもしれません。

いくら「在庫は十分あるので買い急ぐ必要はありません」とナレーションをかぶせたところで、視聴者の耳には入ってきません。
なぜなら、スッカラカンの棚という、テレビ業界で言うところの所謂“強い画(え)”の方が圧倒的にパワーがあるからです。
もしも、テレビ局が本気でパニックを防止したいと思っていたのなら、倉庫に積み上げられた在庫の山という“弱い画”の方を流すべきでした。
トイレット・ペーパー騒動に関しては、マスメディアは確信犯だったのではないでしょうか。

緊急事態だからこそ、新聞やテレビの報道内容は極めて重要です。
マスメディアは、コロナ報道で視聴率を荒稼ぎしようとする姿勢を改めて、報道機関の持つ影響力の大きさと果たすべき社会的役割について、今一度しっかり認識し直すべきだと思うのは私だけでしょうか。

国民の協力で、今回直面している医療崩壊は辛うじて回避できたとしても、その後に待ち構える「経済崩壊」から逃れることはできません。
その時マスメディアは、相も変わらず財務省のスポークスマンを続けるのか、それとも国民に真剣に考えさせるような質の高い報道をするのか、自身の存在意義を問うことをしない限り、報道機関としての信頼性においてネットに敗北することは明白です。

すでに広告媒体としては完全に敗北しています。
そもそも、自由な取材ができないからといって、ネット動画を延々と流し続ける地上波の報道番組に広告料を払いたくなるスポンサーがいるでしょうか。

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