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5☆s 講師ブログ

最期のことば(1)

日本の偉人や英傑たちが、臨終間際に洩らした「声」や「ことば」に耳を澄ますと、そこに日本人特有の死生観を垣間見ることができると、『日本人、最期のことば』を上梓したのは西村眞。
日本人の「最期のことば」と言われて真っ先に思い浮かんだのは、本能寺の変の際、小姓の森蘭丸から「明智光秀の軍勢」と聞かされた織田信長が呟いた、「是非に及ばず」です。
「是非に及ばず」とは「やむを得ぬ」という意味ですが、その裏側には江戸時代中期に書かれたとされる『葉隠』の中の一節、「武士道と云ふは死ぬ事と見つけたり」という、達観の極致とも言うべき武士道精神が息づいているように思えてなりません。

武士道と言えば宮本武蔵。
巌流島の戦いで佐々木小次郎を討ったことは誰でも知っていますが、その後はどのように過ごしていたのでしょう。
30歳を過ぎて大坂冬の陣、夏の陣に西軍として参戦しますが、西軍が敗れたため徳川方から探索を受ける身となり、諸国に潜伏し足跡不明となること20数年。
この頃の武蔵は、士官を願いながら、養子の伊織や数名の弟子を抱えて西国をさ迷ったと言われています。

士官の夢が叶ったのは57歳の時。
肥後国熊本藩主、細川忠利の招きに応じて熊本藩に身を預けることになります。
殺傷に明け暮れた生涯で唯一の静穏な日々でした。
多数の門弟に兵法指南しながら、詩歌、彫刻、書画、茶道に専念し禅の修行に精進しますが、主君の細川忠利が死去した途端、結核とも癌ともつかない老病が悪化します。

藩の重役に「霊厳洞に蟄居して、死期を静かに迎えたい」と願い出て、金峰山西麓の絶壁にある洞窟に籠り、ひたすら『五輪書』の執筆に没頭します。
しかし、厳寒の洞窟で過ごす武蔵の健康を案じた熊本藩の重臣たちが、懸命の説得を繰り返した結果、武蔵は山を降りて屋敷で静養することになりました。
見舞いに訪れた沢村大学に、枕から頭をもたげてただ一言。

「今生(こんじょう)のお暇(いとま)にござる」

取り乱すこともなく、死を運命として粛々と受け入れている様は、まさに武士の鏡。
この武士道精神は、武士の時代が終わりに近づいても、幕末の獅子たちに脈々と受け継がれていきます。
土佐藩を脱藩し西国を転々と流浪した後、無一文となって江戸京橋の千葉道場に辿り着いた坂本龍馬は、休む間もなく勝海舟の暗殺を企て赤坂へと向かいます。

ところが、逆に勝の懐の深さにすっかり惚れ込んでしまい、その場で弟子入りを申し出るのでした。
勝は、『氷川清話』の中でこう振り返ります。
「彼はおれを殺しに来た奴だが、なかなかの人物さ。その時おれは笑って受けたが、おちついてなんとなく冒しがたい威権があって、よい男だったよ」
なんと、暗殺者と知っての上で面会していたのです。

勝は徹底的な「来る者拒まず、行く者追わず」主義の人間で、維新後も訪ねてくる人間であれば太鼓持ち、芸人、高利貸し、盗人の他、暴徒や刺客であろうと区別することなく会っていました。
「おれは今日までに、都合二十回も敵の襲撃に遭ったが、現に足に一ヶ所、頭に一ヶ所、脇腹に一ヶ所の疵が残って居るよ」という自慢話はどうやら嘘ではないようです。
この時代の獅子たちには、自分の命を惜しんでいる暇などなかったのですね。

西郷隆盛も、一遍で勝に惚れ込んだひとりです。
勝との面会直後に大久保利通に宛てた書簡に、「どれほどの智略を隠しているのか見当もつかない大人物とお見受け申した。なによりも英雄肌の人物であり、昨今の諸問題との対処においては、かの勝先生を越える人物はないと、ぞっこん惚れ申した」と記しています。
あの西郷が「英雄肌」と感じたのですから、よほど肝が据わっていたのでしょう。

その西郷も勝同様、相手の素性を知った上で暗殺者と面会したことがあります。
後に茨城県知事になる人見寧という人物が、西郷宛の紹介状を書いてほしいと勝海舟を訪ねます。
雑談しただけで殺意を読み取った勝は、厳封した紹介状に「この男は足下(あなた)を刺すはずだが、まず会ってやってくれ」としたためます。

やがて薩摩の西郷邸に、紹介状を携えた刺客がやってきます。
側近が開封してみると、刺客である旨書かれているではありませんか。
慌てて西郷にその旨耳打ちしますが、西郷は悠然とこう言い放ちます。
「勝からの紹介なら会ってみよう」

そして、横臥していた玄関先でゆっくりと起き上がり客を迎えます。
全身から殺気を漂わせながら現れる刺客。
周囲が異様な緊迫感に包まれる中、西郷はおもむろに口を開きます。

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