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5☆s 講師ブログ

一族皆殺し(2)

ロバート・キャンベル大尉率いる120名の兵士たちは、「皆殺し」の任務の実行に移りますが、この時奇妙なことが起こっていました。
結論から言うと、この作戦で殺害された村人の数はわずか38人。
「皆殺し」のはずなのに、村人全体の1割にも満たない数字です。

その理由は、あまりに非情な命令に対して多くの兵士が反感を覚え、わざと大きな音を立てて村人に危険を知らせたり、中には「明日、大変なことが起こる」と事前に犯行を予告していた者もいたからです。
殺伐とした話の中で、ちょっとだけホッとする場面ではありますよね。

とにもかくにも、マクドナルド一族は辛うじて全滅を免れました。
そして、そのことが130年後に一つの果実をもたらします。
ブレンデッド・ウィスキー『ロング・ジョン』の誕生です。

身長193cmの大男だったことから“ロング・ジョン”と呼ばれたジョン・マクドナルドは、正真正銘のマクドナルド一族の末裔。
彼の曾祖父のアレキサンダー・マクドナルドは、1715年と1745年のジャコバイトの反乱の際に、先頭に立って戦った勇猛果敢な兵士でした。
しかし、最後の反乱が制圧されて以降は、他のジャコバイト同様、貧しい小作農家の生活を細々と続けるしかありませんでした。

ハイランドが大きな転機を迎えたのは1822年のこと。
ジョージⅣ世が、王妃との離婚問題などで低迷する人気をテコ入れするため、連合王国の王としては172年ぶりにエディンバラを訪れます。
しかし、この訪問は王自らが望んだものではなく、スコットランドの人々の心をどれだけ捉えられるが政局の鍵である、と側近から説得されての渋々の行幸でした。

ところが、そこで実に見事な演出が行われます。

王のみならず謁見式典の参加者全員が、タータンと呼ばれるハイランドでは伝統的な格子柄で作られた、あのスカートのようなキルトを身に纏って登場したではありませんか。
ハイランドの人々は熱狂し、ローランドやイングランドでもタータン・ブームが巻き起こります。
「ジャコバイトの反乱」のシンボルとして、衣裳禁止法により着用を禁じられたことさえある野蛮な牛泥棒の装束が、一夜にして「国民衣裳」に祭り上げられてしまったのです。

いつの時代も、国家とか国民とか、「国」と名の付くものほど気まぐれなものはありません。

この時、タータンのキルトと共に脚光を浴びたのがウィスキーでした。
行幸初日、リース港に停泊した船を迎えに出た詩人のウォルター・スコットを労って、ジョージⅣ世が一杯注ぐよう命じた瞬間に、化外の地の密造酒が「ナショナル・リカー」にまで昇格してしまったのです。

翌年、ウィスキー普及のために酒税法が改正されます。
当時、ハイランドのウィスキー蒸留所はごく小規模なものばかりで、法の要求する年間2,270リットルという生産能力を満たすことができなかったため、全て密造酒扱いにされていました。

規制が緩和されたのを機に、正式なウィスキー製造業者となることを目指して、ジョンは遠縁のマクドナルド家を頼り資金集めに奔走します。
そして、その2年後には、英国一の標高を誇るベン・ネヴィス山の麓に蒸留所を建設してしまいます。
恐るべき行動力。

しかし、一族が彼に手を差し伸べた理由は、その卓越した蒸留技術だけではありませんでした。
ジョンに纏わる、こんな逸話が残されています。
牡牛に襲われた人を助けるために素手で牛に立ち向かい、最後はなんと牛の首の骨をへし折ってしまったというのです。
人のためなら命も惜しまない勇敢さと正義感。
これこそ曾祖父の、いやマクドナルド一族の遺伝子なのでしょう。

ジョンの活躍は、やがてイングランドでも人々の話題に上るようになります。
1848年には、噂を聞きつけたヴィクトリア女王が蒸留所を見学に訪れます。
この時ジョンがプレゼントした樽は、バッキンガム宮殿のセラーに運ばれ、後に皇太子が成人した時のパーティーで振る舞われたといいます。
凄惨な「グレンコーの虐殺」から170年の時を経て、イングランド王室とマクドナルド一族がようやく和解したわけです。

もしあの時、兵士たちが皆殺しの命令を忠実に実行していたら、と考えながら『ロング・ジョン』を飲むと、その味わいも何となく変わってくるような気がします。
バランスのとれた口当たりのよいブレンデッド・ウィスキーですが、マクドナルド一族のプライドとジャコバイトの反骨心が、隠し味としてブレンドされているのかもしれません。

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