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5☆s 講師ブログ

モノ忘れは気から

年を取るとモノ忘れがひどくなるのは、脳細胞が死滅していくからだとよく聞きます。
本当でしょうか?

実は、加齢と共に脳細胞が減るというのはまったくのデタラメで、20代と80代の脳細胞の数はほぼ同じです。
ただし、脳の働きというのは細胞の数ではなく、細胞間を繋ぐシナプスの働きに左右されることがわかっています。
しかし、このシナプスについても、加齢と共に働きが衰えるという報告はほとんどなく、むしろ柔軟性が増すという報告さえあるほどです。

では、モノ忘れがひどくなる本当の原因は何でしょうか?
結論から言うと、「思い込み」です。
「病は気から」と言いますが、「モノ忘れも気から」なのです。

心理学界には『ザ・ジャーナルズ・オブ・ゲントロジー』という老年学の専門誌がありますが、2003年に掲載されたヘスらのユニークな論文があります。
まず、被験者として高齢者と若者を、それぞれ48名ずつ集めます。
平均年齢は70.8歳と19.3歳。

彼らをそれぞれA、B、Cの3つのグループに分け、AとBにはニセの新聞記事を読ませます。
ただし記事の内容は違っていて、Aは「年を取ると記憶力が落ちる」というネガティブなもので、Bは全く逆の「加齢でもおおよその認知機能は低下しない」というポジティブなもの。
Cグループは対照群なので、何の情報も与えません。

次に、全員に記憶テストを行います。
30個の単語リストを提示した後、正しく報告できたのは何個かを調べたのですが、実に意外な結果となりました。

まずは、情報を与えなかったCグループを見てみましょう。
若者の正答率が61%だったのに対し、高齢者は56%。高齢者も結構健闘していますよね。
これが基準となります。

次にBの、加齢に関してポジティブな印象を形成したグループを見てみましょう。
若者の正答率は同じく61%ですが、高齢者は58%に上がりました。
差がグッと縮まったわけです。

最後に問題のA、ネガティブ印象のグループです。
若者が59%と高い成績だったのに、高齢者は44%まで下がってしまいました。
たまたまAグループに、ボケ老人が多く集まっていたわけではありません。
テスト前に読んだネガティブな記事が、マイナスの影響をもたらしていたのです。

後に追試も行われましたが、ほぼ同じ結果が得られました。

思い込みって本当に怖いですね。
私たちも、「高齢者なのだから、覚えられなくてもしょうがない」と思いこんでいる節は確かにあります。
このように、なんとなく信じている誤った常識が、行動に大きな影響を与えてしまうことは結構多いのです。

アメリカでは、「白人は知性に長けていて、黒人は身体能力に長けている」というイメージが、いかんともしがたく存在しているそうです。
これに関する、アリゾナ大学のストーンらが1999年に発表した研究があります。

黒人と白人をそれぞれ40人ずつ集めて、あるグループには「ゴルフは身体能力が強く反映されるスポーツ」という印象を、もう一方のグループには「ゴルフは高度に知的なスポーツ」という印象を植え付けます。
その後で実際にゴルフのプレーをすると、身体能力の印象を与えられたグループでは黒人の、知的印象のグループでは白人の、パフォーマンスがそれぞれ上がったというのです。

こうなると、思い込みは社会問題にも関係してきそうです。
特にその内容が、世間でよく耳にするようなものであるなら、思い込みの影響力はますます強まってしまうでしょう。
今後は、高齢者は肝に銘じるべきです。
「年だからモノ忘れがひどい」などという言い訳は通用しないということを。

でも、不思議に思うことがひとつあります。
高齢者は記憶力には自信がないくせに、なぜ車の運転に関しては自信満々なのでしょう。
たとえ大事故には至らなくても、高齢者の運転はミスがとても多いということが、世間で常識のように語られる時代が来たら、免許を自主的に返納する高齢者が増えるのではないでしょうか。

ヘスの実験では記憶テストでしたが、代わりに運転テストでやってみたら、「高齢者は運転ミスが多い」というのが単なる思いこみなのか、あるいは本当に運転がヘタなのか、白黒がはっきりするように思うのですが・・・。
誰か取り組んでくれる心理学者はいないのでしょうか。

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