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5☆s 講師ブログ

免疫の意味論

自己とは何か?

長年、哲学が探し求めていたテーマに、完璧な答えを提示したのは、意外にも「免疫学」でした。
多田富男の『免疫の意味論』は、科学者だけでなく文系の人間にも大きな衝撃を与えた書です。

特に強烈だったのが、「キメラ」の話でした。
キメラと聞いて、その語源となったキマイラを連想した人は、間違いなく文系人間です。
キマイラとは、頭がライオンで胴体がヤギ、そして尻尾が毒蛇というギリシャ神話に登場する想像上の動物です。

しかし、生物学では想像上の動物ではなく現実のものです。
とは言っても、異なる種類の動物の一部分を組み合わせることなんて本当にできるのでしょうか。

できます。
具体的な例で説明しましょう。

まず、ニワトリとウズラの卵を用意します。
そして、それぞれの胚の神経管の一部を入れ替えます。
例えば、腕神経叢の部分を入れ替えると、黒いウズラの羽根を持った白いニワトリが誕生します。

もっと面白いのは、脳胞キメラです。
頭はウズラ、体はニワトリというまさにキマイラのような生物が生まれます。

この、世にも奇妙な生き物は、脳がウズラなので自分はウズラだと思い込んでいます。
ですので、ウズラのように鳴こうとしますが、声帯はニワトリなので奇妙な鳴き方になってしまいます。

さて、ここからが興味深いのですが、キメラ動物は長生きできず10日前後で死んでしまいます。
なぜかと言うと、免疫細胞が「非自己」の部分を激しく攻撃してしまうからです。

この、「自己」と「非自己」の選別は極めて重要な機能で、
例えば私たち人間の場合は、インフルエンザウイルスに乗っ取られた細胞を免疫細胞が「非自己」と認識して、
攻撃してくれるおかげでインフルエンザが治るのです。

となればですよ、免疫細胞を作る部分も一緒に移植したら、と誰しも考えますよね。
免疫細胞のT細胞を作り出すのは胸腺です。
そこで、胸腺の原基も同時に移植すると、激しい拒絶反応は見られなくなりました。

つまり、こういうことです。
今まで私たちは、「自己とは何か?」を考えているのは自分の脳だと思っていました。

言い換えると、自己を支配しているのは脳だと思っていたわけです。
だから「我思う、故に我あり」という発想が生まれた訳です。

ところが、この実験からわかったことは、自己を定義づけしているのは脳ではなく免疫系だということです。
免疫系こそが、自己そのものなのです。

『免疫の意味論』が、理系の話が苦手な人も含めて幅広い層の支持を得て
大佛次郎賞を受賞したのには理由があります。

多田は日本の免疫学の第一人者でありながら、
学生時代から江藤淳らとともに同人誌に詩を投稿するほどの文才の持ち主で、
晩年は能の作者としても有名でした。
そういう意味では、理系と文系の接点で活動した希有な存在と言えるでしょう。

67才の時、脳梗塞により声と右半身の自由を失いますが、懸命のリハビリと執筆活動は続けました。
そして、小泉-竹中コンビが提出したリハビリ日数制限法案に対して
鮮烈な政治批判を繰り返したのは、記憶に新しいところです。

たしかに、生命の価値を生物学的に捉えるのか、それとも経済学的に捉えるのかというのは、
かなり深いテーマではあります。

ところで、胸腺は免疫細胞であるT細胞を作り出しますが、すべてがエリート細胞というわけではありません。
中には出来の悪いT細胞もいて、自己を攻撃してしまう不良もいます。
そこで胸腺は、不良T細胞の排除という重要な仕事もしながら、「自己」防衛の最前線で孤軍奮闘しているのです。

そんな胸腺ですが、機能している期間は実に短く、二十歳を過ぎる頃にはかなり小さくなり
中高年になる頃にはもはや姿形さえ判然としません。
加齢により抵抗力が衰えるのはこのためです。

私は食べたことありませんが、リード・ボーというフランス料理があるそうです。
これは仔牛の胸腺を調理したものですが、食べられるくらいの大きさなのは仔牛のものだけなのでしょう。

私が不思議に思うのは、そこなのです。

加齢とともに免疫系は機能しなくなり、「自己」と「非自己」の選別が曖昧になっていきます。
しかし、それに逆行するかのように、感情面では「自己」に固執する度合いが増し
「非自己」を受け入れることができずに、ますます頑固になっていく傾向が強いのは、
一体何故なのでしょうか。

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