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5☆s 講師ブログ

「顧客第一主義」の危険性

企業理念として「顧客第一主義」を掲げている会社は数多くありますが、私はこの思想教育にはある種の危険性が伴うと考えています。
というのは、「理念」とはあくまで抽象的なもので、具体的な行動を示していないからです。

この具体性のない「顧客第一主義」というお題目が、クレーム客を飛躍的に増大させ、ひいてはモンスター・クレーマーを生む温床になったのではないでしょうか。
当たり前のことですが、「顧客第一主義」において、最も優先されるのは「顧客」です。

となると、相対的に「従業員」の優先度は低くなります。
その結果、顧客の要望は絶対的なものとして神格化され、従業員の存在は後回しにされてしまいます。
これが、従業員のメンタル不全や、離職に繋がっている可能性があるのです。

では、どうしたらよかったのでしょう?
答えは簡単。

「顧客第一主義」とは何かを、従業員の具体的な行動にまで落とし込んで提示すればよかったのです。
簡単に言うと、顧客の様々な要望に対する対処法を記載した、「行動マニュアル」を整備しておくべきでした。

例えば、会社側に非がある場合は、丁重に謝罪した上でお詫びとして金券か無料券を渡す。
会社側に非はないが、顧客の責任も問えないという場合は、丁寧に事情を説明した上で商品の交換か返金に応じる。

顧客側に責任がある場合は、対応できない理由を説明した上できっぱりお断りする。
度を超した悪質なクレームに対しては、警察に連絡する旨伝える。

マニュアルに記載されていないケースは、本部の専門スタッフに連絡して判断を仰ぐ。
もし、専門スタッフでも判断できない場合は、契約している社外機関か弁護士に相談して速やかに対処方法を決定する。

緊急を要する場合は現場の判断に一任し、本部はその判断を尊重して、以後徹底的に従業員を擁護する。
もちろん、後々SNS等で炎上する場合を想定し、本部の誰がどのような基本姿勢でどのように対応するかまで予め決めておく。

このような準備もせずに、いきなり「顧客第一主義」という抽象的な理念だけを提示するだけで、具体的な対処に関しては現場に丸投げというのでは従業員がもちません。
だから、「顧客第一主義」を掲げるためには、十分な事前準備と、経営陣の一定の覚悟が必要だったのです。

「顧客第一主義」を掲げる企業は、悪質なクレーマーにとってはある意味格好のターゲットです。
だから、最悪の場合はクレーム客と縁を切る覚悟がなければ、「顧客第一主義」というスローガンは掲げてはいけないのです。

商品やサービスを提供する現場では、常に効率性が重視されます。
だからこそ、日常のオペレーションをマニュアル化しています。
それならば、顧客クレームへの対処もオペレーションの一つと捉え、あらゆるケースを想定してマニュアル化しておくべきなのです。

もし、マニュアルを作ると膨大な量になってしまうとか、いちいち参照するのが大変だというのなら、従業員が話しかければ答えを提示してくれる生成AIのシステムを構築すればいいだけの話です。
でも、そんな面倒なことはしたくないという企業もあるでしょう。

大丈夫。
全く別のアプローチ方法もありますよ。

それは、マニュアルがなくても、臨機応変に対応できる優秀な従業員を育成するという方法です。
この方法で成功した典型例は、顧客満足度が非常に高いことで有名なリッツ・カールトンです。

このホテルの場合、従業員一人ひとりに1千ドル(約15万円)の決済権限が与えられています。
これならマニュアルなど作らなくても、確実に人は育ちます。
なぜなら、経営陣のこんな強い決意を見せられれば、誰だって真剣に「顧客第一主義」とは何かを考えるからです。

マニュアルは作らない。
従業員に裁量権は与えない。
ただひたすら、「顧客第一主義」という抽象的な理念を現場に押しつけるだけ。
これでは、従業員はもちませんよ。

私は、「顧客優先」か「従業員優先」かという、二者択一の議論をしているわけではありません。
「顧客第一主義」を掲げたいのなら、クレーム対応に限らず、顧客満足度を高める具体的な従業員の行動を全て洗い出さなければならないのです。

そして、次の段階として、全員がその行動が取れるように、繰り返しトレーニングをしなければなりません。
つまり、顧客満足度を高める具体的な行動がはっきりしないうちは、「顧客第一主義」という抽象的なスローガンを掲げてはいけないのです。

「顧客第一主義」というお題目は、本社の壁に飾っておくだけなら「理念」のままでもいいですが、現場の従業員一人ひとりに徹底しようとすると結構面倒な話になるのです。

要は、その面倒を正面から受け止めるだけの覚悟が経営者にあるかどうかです。
「顧客第一主義」に限らず、現場の苦労を知らない経営者は、どんなスローガンも掲げるべきではありません。

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