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5☆s 講師ブログ

営業方針は「売るな」?(1)

この会社では、お客様に必要のない商品を無理に売りつけた従業員は減給されます。
もちろん、ノルマや売上目標はありません。
在庫回転率は完全に無視され、むしろ積極的に過剰在庫を目指しています。
極めつけは、営業方針がまさかの「売るな」であることです。

経営コンサルタントが聞いたら気絶しそうな話ですが、経営の柱はただひとつ。
「心から売りたいと思う商品以外は売ってはならない」

マスメディアで頻繁に取り上げられる「かっぱ橋道具街」にある料理道具専門店、「飯田屋」の6代目飯田結太はこう言って胸を張ります。
しかし、飯田がこの境地に辿り着くまでには、倒産の危機を何度も経験しなければなりませんでした。

飯田屋の創業は1912年(大正元年)。
関東大震災と戦争により2回も店舗焼失の憂き目に遭いますが、それでも戦後は精肉店用道具の専門店として全国に名が知られるまでになります。
ところが、スーパー全盛期が到来すると精肉店の閉店が相次ぎました。

飯田屋もジリ貧に追い込まれます。
夜遅くまで働く母親の小さな背中に、結太が家業を継ぐことを告げたのは社会人となって2年目の春のこと。
それでも、業績の急降下は止められませんでした。

売上はかつての1/4近くにまで落ち込み、赤字の垂れ流し状態が続きます。
心配した母親が連れてきたのは経営コンサルタント。
彼の指摘は実に的確でした。

「資金の回収を急ぎなさい」
「たまにしか売れない“極”(きわ)の商品は仕入れをやめて、在庫回転率を上げなさい」
「商品回転率が悪すぎます」

ところが、言われるままに“極”の商品を切り捨てていった結果、専門店らしさはどんどん失われていきます。

毎日必死の思いで店頭に立っていた飯田は、あることに気づきました。
来店するプロの料理人たちが、みな手に小さなメモ帳を持っているのです。
そして、料理人たちはメモ帳に何かを書き込むや否や足早に店を出て行き二度と戻って来ませんでした。
書き込んでいたのは商品の値段。
彼らは1円でも安い店を探していたのです。
早速飯田は、問屋街の全ての店の値段を調べ上げて、最安の値札をつけるという戦略に出ます。

しかし、価格競争というのは大量仕入があってこそ初めて成り立つ商売。
薄利「少」売の飯田屋にとっては、自殺行為に他なりませんでした。
しかも、少しでも価格の安い商品を求め続けた結果、いつの間にか高品質の国産品は店頭から姿を消します。
韓国製は次第に中国製に取って代わられ、やがてバングラデシュ製を経てインド製に。
価格が下がれば下がるほど、急増したのは品質に対するクレーム。

終わりが見えない安売り競争の最中に、気心の知れた先輩従業員が突然失踪します。
その理由を聞かされた飯田は愕然としました。
「この店に未来ないわ・・・」

そんなある日のこと“神様”が飯田屋を訪れます、しかも2人も。
最初の神様は割烹着姿の大将でした。

大将は、最も柔らかい食感の大根おろしを作れる「おろし金」を探していました。
しかし、そんなことを聞かれても飯田には皆目見当がつきません。
なぜなら、飯田が知っているのは商品の価格だけ。

品質のことは全くわかりません。

そこで、大根を買ってきて大将と一緒におろしてみることにしました。
店にある全ての「おろし金」を試してみたのですが、神様は首を縦に振りません。
宿題として託された飯田は必死でカタログを調べ上げ、あらゆるおろし金を片っ端から取り寄せます。
そしてついに、「ふわふわ食感」のおろし金に出会います。

この時、様々なおろし金を試したことで、飯田は驚愕の事実に気づきました。
今まで料理道具の機能などどれも大差ないと思っていたのですが、道具によって食感や味に明確な違いがあったのです。
でも、もっと驚いたのは、普通のおろし金の何倍もする高額商品なのに、大将が1円も値切らずに買っていったことでした。
道具街では、値切らない客は激レアです。
しかも、「ありがとうな。また来るよ!」という言葉まで残して。

2人目の神様はスーツ姿のビジネスマン。
閉店間際に駆け込んできたその男性は、ケーキ用の金型を探していたのですが質問がとにかくマニアック。
ニッケルとクロムの含有比率を聞いてきたのです。
メーカーに問い合わせて答えると、さらに「こっちは何の金属が混じってるの?」、「生産地はどこ?」、「この会社は他にどんな製品作ってるの?」と畳みかけてきます。

飯田は考えました。
「店員を困らせようとする新手のクレーマーか?」
「いやいや、もしかしたらすごく有名なパティシエ?」
ところが、働いている店の名前を尋ねたところ、返ってきた答えは「ケーキはまだ一度も作ったことがない」

一体どういうことでしょう?
男性はこう続けます。

「実は、子供がニッケル・アレルギーで市販のケーキが食べられない。それなら自分が作ってやろうと思って金型を探している」
飯田は悔しくてなりませんでした。
我が子のために世界で唯一のパティシエになろうと来店してくれたお客様に、何一つお手伝いできなかったのですから。

この時、飯田は気づきます。
「これが欲しかった!」、「こんなのを探していた!」というお客様の願いを叶えて、お客様に笑顔になってもらうことこそが自分のやりたい商売ではないのか。
そのためには、たったひとりのお客様に、心から「これが欲しかった」と言わせるだけの商品をどれだけ揃えられるかが勝負だ。
売れ筋を集めて在庫回転率を高めるのは大企業の戦略。
飯田屋が同じ戦略をとったら、お客様が飯田屋に来店する理由がなくなる。

逆に「超」がつくほどマニアックな品揃えの専門店を作れば、プロの料理人だけでなく高品質な品物を求める一般の人も集まるはず。
値下げもダメだ。

安売りは麻薬と同じで、一度手を出してしまえばやめられなくなる。

ここから、一発逆転の快進撃が始まります。
飯田の発信するマニアックなブログが話題になり始めた頃、ある情報サイトから「台所番長」という連載ものの執筆依頼が舞い込みます。
やがて様々なメディアから引っ張り凧となり、それにつれて店の売り上げも急上昇。
ついに飯田屋は倒産の危機を脱することができたのです。

飯田は、とにかく売上アップに専念することで経営を軌道に乗せ、従業員に少しでも多くの給料を払うことを目指しました。
ところが、その光が見え始めた矢先、予想だにしないことが起こります。
従業員の大半が退職を申し出てきたのです。

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