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5☆s 講師ブログ

協力し合う生物(3)

「共感」と聞くと、私は最近流行の「寄り添う」という言葉を思い出してしまいます。
マスメディアにとってとても便利なワードのようで、その定義もはっきりしないまま盛んに使い回されています。
随分と無責任な話ですよね。

「寄り添う」という言葉には、相手の気持ちを思いやるという意味も含まれているようですが、殺伐とした現代では結構高度な精神活動のような気もします。
でも、それは全くの間違いです。

生物学的には、「共感」はかなり原始的な行動原理であることがわかっています。
そもそも共感とは、相手と同じ精神状態を追体験することです。
冒頭で、エモリー大学のフランス・ドゥ・ヴァールが、ネズミも共感することを発見したと述べましたが、どういうことか説明しましょう。

今一匹のネズミが、近くにネコがいることに気づいたとしましょう。
ネコはとても敏捷なので、全速力で逃げても捕まってしまうかもしれません。
そこでネズミはどうするかというと、その場で気配を消して所謂「フリーズ」の状態になります。

一匹がフリーズすると、それを見た仲間のネズミも同じようにフリーズします。
なぜなら、いたずらに騒ぎ立てたりせずに、全員が動かずにじっとしている方が助かる確率が高いからです。
つまり、フリーズという精神状態を他のネズミも追体験することで、集団全体の生存率を上げようとしているのです。
これが、共感が生存にとって有利な行動原理であるという理由です。

最近の脳科学の研究により、ヒトは共感すると脳の「前帯状皮質」という部位が活性化することがわかってきました。
ここは、痛みを感じた時に活性化する部位です。
実際の体の痛みは感じていないけれど、他人の痛みを追体験しているのです。
「仲間外れ」の実験でも、この「前帯状皮質」が活性化することが確認されています。
「仲間外れ」は、まさに「心の痛み」に他ならなかったのです。

でも、仲間外れにされるのは嫌だけど、どうしても譲れない時だってありますよね。
このように、あくまで自分の主張を押し通そうとする時には、脳の「前帯状皮質」と「島皮質」が活性化していました。
自己主張する時にも、心は痛みを感じているのです。
一方、相手の主張に合わせるために自分の方が折れる場合は、側坐核の「腹側線条体」と「眼窩前頭皮質」が活性化することがわかっています。
脳を観察するだけで、心の葛藤が手に取るように分かるなんて、何だか怖い話だと思いませんか。

ところで、この共感という感情は、「痛み」だけでなく「うれしい」とか「楽しい」と感じる時にも起こります。
霊長類学や神経科学の研究によると、なんと「あくびの伝染」も共感反応の現れなのだそうです。
チンパンジーでは、同じ群れで暮らすチンパンジーの方が、よりあくびが伝染しやすいことが確認されています。
ヒトでも、単なる知り合いより、友人や親族の方が伝染しやすいことがわかっています。

ところが、コミュニケーション障がいのある自閉症者にはあくびは伝染しません。
あくびを見ている人の脳を観察すると、「前頭前野腹側内側部」という部位が活性化していました。
ここは、共感に関係する部位です。
ということは、他人のあくびを見ているだけでも、その人に十分寄り添っていることになります。

痛みを感じる「前帯状皮質」は、前向きな気持ちになることにも関係しています。
前帯状皮質を電気刺激する実験では、被験者は「高速を運転中にハリケーンに襲われ、前が見えないほどの豪雨に巻き込まれた」シーンをイメージしたと振り返りました。
ところがその後、「何とか乗り越えよう」という前向きな気持ちが芽生えたとも述べています。
つまり、「共感」から「克服」へと心境が変化したのです。
本当に脳というのは奥が深いですね。

「寄り添う」というのは、このように「共感」から一歩先に進んで、「克服」に向けて共に歩むことを指すのではないでしょうか。
とするなら、それは何らかの行動を伴う行為のはずです。
マスメディアは、「寄り添う」とは具体的にどのような行動をいうのか、言葉の定義をキチンと明示すべきではないでしょうか。
少なくとも、曖昧な表現は使うべきではありません。

さて、この前帯状皮質の活動を調整しているホルモンがあります。
それは共感を強めるホルモン「オキシトシン」です。

オキシトシンは、アルコールによって働きが強化されることが知られています。
だから、古来から酒は、ソーシャル・ボンディング(社会的結合)を強めるツールとして使われてきたのです。
宴会が、人類のコミュニケーションに一役買っていたことは間違いありません。

でも、オキシトシンというのは、そもそも親が我が子を守るために備わったホルモンです。
なので、身内以外に対しては、時として攻撃性を高めることがあります。
つまり、仲間意識を強くしてくれる反面、仲間以外には排他的、攻撃的になるケースがあるということです。

なるほど、謎が解けました。
時々飲み会の席が、上司などその場にいない人に対する悪口大会になることがありますが、これはオキシトシンの成せる業なのですね。

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