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5☆s 講師ブログ

協力し合う生物(1)

最近、世の中がどんどん物騒になっているような気がします。
新聞には、毎日のように殺人や傷害、あるいはいじめといった殺伐とした記事が載っています。
なぜ、人間はお互い傷つけ合うのでしょうか。

生物学界では長い間、「人類は争いを好み、攻撃的で野蛮である」いう考え方が主流でした。
というのも、19年9月のブログ『狂暴な番犬』でも紹介した、ダーウィンのブルドックと言われた19世紀の生物学者、トマス・ハクスリーが「道徳とは人類が勝手に創り出したもので、自然界には存在しない」という説を主張していたからです。
さらには、ノーベル生理学・医学賞を受賞した動物行動学界の大御所コンラート・ローレンツも、「人類は攻撃の本能を抑える術を持っていない」と唱えました。

ところが、これらの説を一挙に覆す人物が現れます。
エモリー大学のフランス・ドゥ・ヴァールです。

彼は霊長類だけでなくゾウからネズミまで、様々な動物が積極的に協力行動を取り、他個体の苦痛に共感する能力を持っていることを証明してみせました。
すると今度は、「ヒトは本来協力的である」という証拠が次々に見つかり始めます。

例えば殺人事件。
現在、証拠が残っている人類最古の殺人は、今から約43万年前に起こったことがわかっています。
スペインの洞窟から出土したヒト属の頭骨の左目の上部に、骨を貫通する傷が2つあったのです。
600万年以上に及ぶ人類進化の歴史において、43万年前というのはつい最近のこと。
どうやら、人類は非常に長い間、お互いに協力し合って平和に暮らしてきたというのが真相のようです。

ところがある日、何らかのきっかけで人類は暴力を手に入れてしまいます。
そのきっかけとは、一体何だったのでしょう。

それは「農耕」です。
狩猟民族は狩りをするため、ややもすると暴力的なイメージを持たれがちですが、部族や集団の間で殺し合いが行われるようになったのは、明らかに農耕民族の出現以降です。
狩猟民族は肉の保存方法を知らなかったので、仕留めた獲物は集団の構成員にほぼ平等に分配されていたようです。

ところが、農耕が始まると食料の保存が可能になります。
すると、集団間に食料備蓄の格差が生まれ、飢えた集団が備蓄の豊富な集団を襲うようになりました。
農耕民族には平和なイメージがありますが、集団殺戮の歴史が始まったのは農耕民族からというのが人類史の定説です。

ところで、20世紀は2度の世界大戦があったため、「もっとも血が流された世紀」などと言われますが、これも完全な誤りです。
データで見ると、世界大戦より前の社会はもっと暴力的でした。

犯罪人類学の研究によると、原始的な社会では周辺諸国の制圧や奴隷の売買などにより、常に構成員の15%ほどが暴力の犠牲になっていたそうです。
14世紀の西欧では、殺された人の数は人口10万人当たり40人ほど。
これが、20世紀の終わりにはたったの1.3人にまで減少します。
実に1/30。

人類の戦争の歴史をまとめた、ハーバード大学の心理学者スティーブン・ピンカーの『暴力の人類史』も、ユニークな視点から20世紀以後の世界の方が平和であることを証明しています。
ピンカーは、人類が起こした戦争について、まず死者数の順に並べてみました。
1位は、5,500万人もの人が犠牲となった第二次世界大戦。

次にピンカーは、死者数を20世紀中盤の人口に対する数に換算してみました。
つまり、総人口という分母を同じにした上で、戦争ごとの相対的な死者数を比較したのです。
第二次世界大戦は20世紀に起こっていますので、世界人口に対する相対的な死者数に換算しても当然5,500万人のままです。

ところが、相対ランキングで見ると9位にまで落ちます。
相対死者数で1位になったのは、8世紀の中国唐の時代に起こった「安史の乱」で、実際の死者数は3,600万人ですが人口換算後は4億2,900万人に上りました。
2位は「モンゴル帝国の征服」で、実際の死者数4,000万人は人口換算後は2億7,800万人。

この分析の注目すべき点は、実際の死者数の多い21の戦争のうち14、すなわち2/3は19世紀以前に起こった戦争である点です。
しかもそれらの戦争による死者は、当時の世界人口に対する数で見ると、どれもとんでもない大惨事だったことがわかります。

第二次世界大戦以後は、大量殺傷兵器の開発が進んだことが却って戦争の抑止力として働いたようで、戦争の形態は次第に「内戦」へと変わっていきました。

日本はどうでしょう。
現在、殺人事件の犠牲者は、年間360人以上。

だいたい1日1人のペースで殺害されている計算です。
随分多いような気がしますが、殺人事件のピークは1954年(昭和29年)の3,081件。
当時の人口は8,823万人なので、10万人当たりでみると、この60年の間に1/20にまで減ったことになります。
私たちのイメージとは違って、日本はどんどん平和になっているのです。

でも、なぜ人類は平和主義者になったのでしょう。
ピンカーは、暴力を抑制する心の働きが加速度的に高まったからだと分析しています。

しかし、この説には疑問を呈する学者もいます。
認知科学者の川合伸幸は、ヒトはもともと暴力を抑制して、他人と協力し合う生物であると主張しています。
川合の言い分を聞いてみましょう。

マックス・プランク進化人類学研究所のマイケル・トマセロらは、ヒトの赤ちゃんの行動を調べました。
生後14~18ヶ月の赤ちゃんが、血縁関係のない大人を助けるかどうかを調べたのです。
大人の手が塞がっている時、戸棚の扉を開けてくれるのか。
あるいは大人の手が届かない時、代わりに取ってくれるのか。

なんと、24人中23人の赤ちゃんがすぐに手助けしてくれました。
しかも、親から褒められるなどの報酬がなくても助けたのです。
でも、なぜか20ヶ月児を対象にした実験では、報酬を貰うと援助行動の回数が逆に減少する傾向が見られました。

また、ヒトに育てられたチンパンジーにも、この援助行動が観察されています。
以上から、援助行動というのは生まれながらにしてヒトに備わっている傾向ではないかと、川合は考えます。

そもそも、なぜヒトは協力するのかという問題は、生物学にとっては大きな謎のひとつでした。
これを解く鍵となったのが、スタンフォード大学のマシュー・ファインバーグらが行った「公共財ゲーム」の実験でした。

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