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5☆s 講師ブログ

話せばわかるは真っ赤なウソ(3)

犬養毅は、政治家の宿命として多くのマイナス面を持っていました。
1930年(昭和5年)4月、浜口雄幸内閣はロンドン海軍軍縮条約で、補助艦の保有総トン数の日米比率を10対6.975にすることで合意し調印します。

事前に議会の承認を得た上での調印でしたが、野党の政友会の犬養毅や鳩山一郎が、「軍令部の承認を経ずに国防計画に関する条約に調印するのは、天皇の持つ統帥権を犯しているではないか」と言いがかりをつけ、民政党政権を執拗に攻撃します。
このことが、結果として軍部に「統帥権干犯」という伝家の宝刀があることを知らせてしまったことは、犬養らの歴史的な罪と言っても過言ではありません。

政権を倒す手段として、野党が何らかの勢力と結託するのはいつの世も同じ。
現代で言うと、軍部に当たるのは差し詰めマスメディアといったところでしょうか。

マスメディアは、戦前も世論形成に大きな役割を果たしていました。
新聞やラジオは軍部と一体となり、いやそれどころかむしろ軍部に先んじて国民の士気を鼓舞し、「国威発揚」を促す形で軍部を焚き付けました。

1931年(昭和6年)の満州事変の際、全国の新聞・通信社など32社が共同で宣言を発表しますが、その内容は「満州国の厳然たる存在をあやうくするがごとき解決策は、たといいかなる事情、いかなる背景において提起さるるを問わず、断じて受諾するべきものに非ざること」というものでした。
陸軍省内に新設された新聞課により、全ての情報が軍部の統制下に一括されたのはその2年後のこと。

つまり、当時のマスメディアは、圧力をかけられたわけでもないのに自らの意思で国家権力の、いや正確に言うと帝国陸軍の宣伝要員となることを志願したわけです。
これは、間違いなくメディア史に残る大いなる恥部です。

ところが、朝日新聞は自社の70年史に、臆面もなく「新聞社はすべて沈黙を余儀なくされた」と記しています。
大本営発表は、3年8カ月の間に合計846回行われました。
しかし、本当のことを正確に発表していたのは、開戦した1941年(昭和16)年12月の1カ月間だけです。

その後は虚偽、誇大、捏造を繰り返した挙げ句、敗戦直前になると一切の発表がなくなります。
朝日新聞の言う「沈黙を余儀なくされた」というのは、この敗戦直前のことを指しているのでしょうか。
もしそうだとすれば、実にタチの悪い冗談です。

どこの会社でも、都合の悪い話は社史には掲載しないものですが、ここまで堂々と真逆のことを書くというのは、ビジネス界でも極めて異例です。
普通の会社でもそれくらいの節度は持っているわけですから、卑しくも「ジャーナリズム」を口にする企業がやるべきことではありません。

さて、歴史というものは、私たちに何らかの教訓を示してくれるものです。
でも、暴漢が部屋に入ってきても毅然とした態度で接したという超人的な犬養毅から、私たち凡人は一体何を学べばよいというのでしょう。
そもそも、時代背景がまるっきり違うではありませんか。

でも、道子が語った回想の中に、現代にも共通する現象を見つけることができました。
東條英機は自分の内閣を発足する際、軍部に対して批判的な勢力への見せしめとして犬養健を逮捕します。
容疑は、ゾルゲ事件の尾崎秀実(ほつみ)に協力したというもの。
健は最終的に裁判では無罪にはなりますが、それまで犬養家に出入りすることを自慢していた商店主が、逮捕を機に突然「非国民」の家への配達を断ってきたといいます。

それだけではありません。
それまで犬養家と関わりのあった人々が、掌を返したように冷たい態度をとるようになり、挙げ句の果ては家には石が投げ込まれ、道を歩けば唾を吐かれることさえあったそうです。
道子の母は米の買い出しをするにも、素性の知られていない他の町に出かけざるを得ませんでした。

しかも、この経験は道子にとっては2度目のこと。
実は、祖父の犬養毅が銃弾に倒れた時も、犬養家は世間からひどい嫌がらせを受けていました。
世間の評価とは本当に気紛れで、その時代の「空気」に左右されるものです。

ところがその一方で、全く逆のことも起こっていました。
それまでご機嫌とりや、自分の利益のために犬養家と付き合うことを絶対にしなかった人たちが、苦境に陥った家族を励ますために、敢えて危険を冒して犬養家に近づいてきたのです。

やがて終戦を迎え、軍人に殺されたり投獄されたことがまるで勲章のように語られるような時代が訪れると、そのような人たちに限って「礼も笑って受け取らず、わが家の取り巻き連中から遠くはなれて」去って行ったといいます。

道子はその人たちのことを、「恩人」と呼ぶのでした。
私たちが歴史から学ぶべきことは、これではないでしょうか。

私には、大層ご立派な生き方を貫かれた偉人さんより、このような無名な市井の人たちの振る舞いの中にこそ、学ぶべき「お手本」があるように思えてなりません。

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