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5☆s 講師ブログ

37本の監督

イチローは、日米通算4,257本の安打を放つという前人未踏の大記録を打ち立てましたが、その引退記者会見で「監督は絶対無理ですよ。“絶対”がつきます。人望がない。本当に」と発言して話題になりました。
多くの人は、「これだけの記録を作った人だから、監督だってやれるはずだ」と言いますが、私はそうは思いません。
なぜなら、ビジネスの現場では、プレイヤーとしてきわめて有能だった人が、管理職に昇格したとたんに、チームが機能しなくなるケースが山ほどあるからです。

つまり、「自分自身が動く能力」と、「人を動かす能力」というのは、そもそも全く別物だと思うのです。
その証拠に、名球会入りするようなトップクラスの選手なのに、いざ監督として指揮を執ったら、見るべき実績は全く残せなかったという人は掃いて捨てるほどいます。

逆に、選手時代の実績は芳しくなくても、後世に名を残すような名監督になった人もいます。
例えば、阪急ブレーブスで日本シリーズ3連覇を果たした上田利治です。
上田が、現役時代の3年間で打ったヒットは、たったの57本です。
イチローとは比べるべくもありませんが、この程度の成績でも監督になれるのだと驚いていたら、もっと実績のない人が今年監督に就任しました。

楽天の平石洋介です。
2004年に楽天から最下位の7位でドラフト指名された平石の、現役時代7年間の通算ヒット数はわずかに37本。
一般論ですが、監督に起用されるためには、球団上層部に気に入られることが必須条件。

ほとんど実績のない人が監督に上り詰めたのだから、さぞ首脳陣にゴマを擦ったのではないかと勘ぐる向きもありましたが、事実は全く異なります。

まずは、こちらのエピソードを紹介しましょう。
楽天の一軍コーチ補佐時代、監督はあの怖い怖い星野仙一。
あるゲームで送りバントの場面を迎えます。
星野は、コーチに代打の選手を告げました。
ところが、平石は補佐の分際でありながら、あろうことかコーチを差し置いて監督にこう進言したのです。

「バントなら○○の方がうまいです。やつのバントなら僕は心中できます」

星野は一瞬驚きましたが、結局平石が推薦する選手をバッターボックスに送り、バントは見事に成功。
あの怖い監督に面と向かって反論するのですから平石の勇気は大したものですが、それを受け入れた監督の「決断する勇気」も見逃してはいけません。

私の勝手な推測ですが、「部下と心中できる」という言葉が響いたのではないでしょうか。
あなたのサラリーマン人生において、一度でもいいからこんな言葉を聞いたことがありますか?
私自身管理職をしている時に、「部下と心中する」などとは口に出すどころか、思ったことさえありませんでした。
やっぱり、自分の身がかわいいですから。
とりわけプロ野球のコーチにとって、「心中」という言葉には、サラリーマンと違い「解雇」というニュアンスまで含まれています。

なのに、なぜ平石はここまで腹を括れたのでしょうか。
彼は、日頃から選手一人一人と綿密にコミュニケーションをとることで、技術や調子だけでなく性格までも知り尽くしていました。
だからこそ、“賭け”に出ることができたのです。

平石のマネジメント・スタイルは、監督になっても変わりません。
キャンプを取材していた記者たちは、他球団の監督との大きな違いにすぐに気づきました。
それは、選手とのコミュニケーションが圧倒的に多いということです。
忙しくグラウンド内を歩き回っては、選手一人一人と何やら話し込みます。
高額年俸の選手をズラリと揃えても優勝できなかった、巨人の高橋由伸監督の最大の問題は、この選手とのコミュニケーションにあったと私は見ています。

そう言えば高橋が現役の頃、ある年のオールスターゲーム終了後に、イチローから食事に誘われたことがあるそうです。
黙々と道を究めようとするかのような高橋の野球への取組姿勢に、イチローは何かしら共通するものを感じていたのかもしれません。

ところで、平石監督が選手と交わす会話ですが、選手に取材すると結構厳しい内容が多いらしいのです。
しかし、監督との距離感の近さが、「叱責」を「期待」に変えてしまうのでしょう。
楽天選手の年俸総額は約27億円で、トップのソフトバンクの56億円の半分以下。
しかし、年俸の大きさでペナントレースの順位が決まるわけではありません。
野球は団体競技です。
監督が、メンバーのやる気をどうやって引き出すかによって、勝敗の行方は決まります。

「自分の体を動かす能力」と、「人の心を動かす能力」とは全くの別物です。
そして、その「人の心を動かす能力」には、監督と選手、すなわち上司と部下の距離感が深く関係しているのです。
「憧れ」と「人望」の決定的な違いはここにあります。
「憧れ」という感情は相手が遠い存在であっても抱くことができますが、「人望」は相手との距離が近くないと生まれません。
あえて他者と距離を取るタイプのイチローは、その違いをよく理解しているのではないでしょうか。

もし、イチローが監督になってチームの負けが込んだりしたら、長嶋監督の一年目の時のように、スポーツ紙は手のひらを返したように一斉に監督を叩き始めるでしょう。
新聞を売るためには、センセーショナルな見出しが一番ですが、理由はそれだけではありません。
現役時代のイチローは、マスコミ泣かせの選手でした。
記者に背を向けてインタビューを受けていたこともあったそうです。
それでも記者が批判的な記事を書けなかったのは、誰にも真似できない大記録を更新中だったからです。

でも、これが平凡以下の実績しかない監督となれば、マスコミにとってあの時の恨みを晴らす絶好のチャンス。
さぞ、面白おかしい見出しをつけて、監督と選手の間に溝があることを世間にアピールすることでしょう。
私がイチローの監督就任に大反対なのは、何よりも彼がマスコミによって傷つけられる姿を見たくないからです。

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