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5☆s 講師ブログ

信念の歴史

昔々ある牛飼いが、エジンバラの市場に牛を卸しに行く途中の草原で、沢山の牛を休ませていました。

そこは程よく草が生い茂り、牛にとっても牛飼いにとっても実にありがたい休憩場所でした。
ある時、眼下にスペイ川を望む、その「緑の草の生い茂る谷間」が売りに出されていることを知り、牛飼いは迷わず買い取ることを決めます。

ところが、この広大な草地には、ある「おまけ」がついていました。
その「おまけ」こそ、『グレンファークラス』の蒸留所だったのです。

その牛飼い、ジョン・グラントは結構な呑ん兵衛だったらしく、それ以来牛飼いよりもウィスキー造りの方が本業になってしまいます。
記録上は1836年の創業となっていますが、ジョンが経営に力を注ぎ始めた1865年が事実上の創業年と言ってもいいでしょう。

この蒸留所のこだわりは、シェリー樽による熟成とガスによる直火炊き。
シェリー樽と聞いてすぐに思い浮かぶのは『マッカラン』ですが、『マッカラン』がファーストフィル(初めてモルトの熟成に使用)とセカンドフィルしか使わないのに対して、『グレンファークラス』はサードフィルまで使います。
普通に考えると、シェリーの香りはほとんど飛んでしまっているはずですが、何か独自の哲学があるのでしょう。

また、『マッカラン』の小さなポットスチルに比べると、その7倍はあろうかという巨大な蒸留釜は、ガスバーナーの直火で焚き上げます。
何でも、10年にも及ぶ研究の成果だとか。

こうして造られたウィスキーへの思い入れもひと方ならぬものがあり、ブレンデッド業者へ樽ごと卸す「カスク売り」は決してしません。
10年、12年、15年、17年、21年、25年、そして105と多彩なラインナップのすべてを、『グレンファークラス』の名で世に出しているのも並々ならぬ自信の表れか。

かつて「いつも飲んでいる酒は?」と聞かれたサッチャー女史が、「グレンファークラス105」と即答したという真偽の程がよくわからないエピソードも、鉄の女のプライドと相通じるものがあったからこそ生まれたものかもしれません。
わたせせいぞうの『北のライオン』に登場する、小学生のように小柄な看護師の大島くるみが、自分へのご褒美に注文するのも『105』。

105はアルコール度数を表すプルーフのことですが、アメリカン・プルーフが1/2、すなわち0.5を掛ければいいのに対して、ブリティッシュ・プルーフはちょっと複雑で0.571を掛けなければいけません。
105に0.571を掛けると60度。
かなり強い酒です。

これをストレートで飲んだりしたら、それこそ「ガンまっしぐら」。
トゥワイス・アップにした上で、念には念を入れて後からすぐにチェイサーを流し込みます。
レーズンの香りが仄かに漂うふくよかな12年や、まろやかさを絵に描いたような25年に較べると、ノンエイジらしく少しだけ若い酒の尖った感じが残ります。

でも、シェリーの香りが醸し出してくれるフルーティーさと相まって、なんとも絶妙のバランスが成り立っているのは見事。
創業の頃のエピソードを聞いたせいか、心なしかのんびりと牛が食む牧草の匂いが漂ってくるような気がしないでもありません。

ウィスキーをじっくり味わうには、このトゥワイス・アップに限ります。
大手洋酒メーカーが仕掛けた「ハイボール戦略」のおかげで、長い間低迷していたウィスキーの消費量は急激な右肩上がりとなりましたが、このブームでウィスキーの美味しさに目覚めた人は一体どれ位いたのでしょうか。

多くの人は、ハイボールをファッションとして楽しむだけで、時が過ぎれば次の流行りに靡いていくのでしょう。
テレビでは『ホワイトホース』をハイボールで、とはしゃいだCMが流されていますが、ウィスキーのロールスロイスと言われる『ラガヴーリン』を『クレイゲラヒ』と『グレンエルギン』で包み込んだ、ピーター・マッキー渾身の傑作を台無しにするなんて私には到底考えられません。
そんな人はおそらく、それが流行りだと言われれば、平気で『獺祭』を牛乳で割って飲むような人なのでしょう。

今日、あらゆるビジネスフィールドで、グローバル企業による合理性重視の経営がマーケットを席巻しています。
緻密に練られたマーケティング戦略のもと、日々新たな消費スタイルが提案され、社員は今日より明日、今月より来月の業績アップに追い立てられるのです。

過剰在庫は悪とされ、詳細な過去データに基づく適正在庫が厳密にデジタル管理されています。
しかし、頑ななまでに家族経営を守り続けるグラント一族が、地道に積み上げた樽のストックはなんと5万樽以上。

「いま仕込んでいるのは子供の代、いや孫の代を目指して造っているんだよ」と、5代目オーナーは誇らしげに島地勝彦に語りました。
ウィスキー造りには、経済合理性とは一線を画した、“信念の歴史”のようなものがあるように思えてなりません。

ウィスキーの世界でも、近視眼的な「売上至上主義」が大手を振って闊歩するのを見ていると、禁酒法時代に大幅に売り上げを伸ばし、その後あっという間に没落の坂を転げ落ちたキャンベルタウンを連想してしまいます(2016年8月『200年先の評価』)。

大きな成長は追わず、品質に自信のあるものだけを長く作り続ける。
多くの人に愛されなくていいから、そのかわり造り手と同じくらい頑固な飲み手に愛され続ける。

『グレンファークラス』は、日々数字に追われる私たちに、何か大切なことを教えてくれているのかもしれません。
ちなみにこの蒸留所では、ウィスキー造りの際に出る麦芽のカスを飼料にして、アバディーン・アンガス牛を飼育しているそうです。
グラント家のルーツを忘れないという戒めなのでしょうか。

忙しかった一日の終わりに、ほっと一息つきながら自分へのこんなご褒美を味わう日があったとしても、決して罰は当たらないと思いますが・・・。

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