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5☆s 講師ブログ

エピジェネティクス

今回は、お詫びから始まります。
2009年7月のブログで、「獲得形質は遺伝しない」と書きましたが、実は誤りでした。

まず、「獲得形質の遺伝」から説明します。
例えば、あまりのメタボ体型に嫌気が差し、一念発起してジムに通い、
あのCMのようなムキムキのマッチョマンになったとします。
しかし、その後あなたに子供ができても、その子までマッチョになるとは限りません。

つまり、マッチョな体は遺伝ではなく、後天的に獲得した形質なので、遺伝はしないと考えられてきました。
これを主張した科学者は、何代にも渡りネズミの尻尾を切り落としましたが、
そのネズミから尻尾の短い仔ネズミが生まれてくることはありませんでした。
そのため、獲得形質は遺伝しないという説が支持を得たのです。

でも、進化論では「獲得形質は遺伝する」の方が、本当は都合がいいのです。
その理由はこういうことです。

ダーウィンが世に出る前は、進化に関してはラマルクの『要不要論』が主流でした。
小学生の頃、こんな風に習った記憶があります。
キリンの首が長いのは、高い木の葉っぱを食べようとしたウマが、
一生懸命首を伸ばしているうちに、だんだん長くなり、やがてキリンになったのだと。

これが『要不要論』です。
つまり、生物の体は必要に応じて進化するという考え方です。
これは、「獲得形質は遺伝する」ことが前提となっています。

しかし、この説の最大の弱点は、進化の途中が証明されていないことです。
わかりやすく言うと、首の長さがウマとキリンの中間くらいの動物の化石が見つかっていないのです。
ということは、ある日突然、恐ろしく首の長いウマが生まれたことになります。
これがダーウィンの『突然変異説』です。

そして、首の長いウマは高い木の葉っぱを食べることができたので、生存に適していたため
今日まで生き残ったというわけです。
ここに至りラマルクの説は力を失い、ダーウィンの進化論が主流となったのでした。

一見なるほどとは思いますが、ひとつ疑問が残ります。
はたして、そんなに都合よく突然変異が起こるものでしょうか。

ショウジョウバエを薬品にさらしたり、放射線を浴びせたりして人工的に突然変異を起こしても、
それにより出現する突然変異体はみんなすぐに死んでしまいます。
突然変異により、生存に適した個体が出現する確率など、限りなくゼロに近いのです。

にも関わらず、生物は短期間のうちにどんどん進化し、より環境に適した形を編み出してきました。
この不思議を説明するのに、もっとも都合がいいのが「獲得形質の遺伝」なのです。

実はこの分野の研究は、この15年くらいで目覚ましいほど進んでいます。
その結果、提唱され始めたのが『エピジェネティクス』という考え方です。

遺伝するのです、あなたが頑張って獲得した形質が。
例えば、一生懸命勉強して手に入れた知識が、そのまま子供に遺伝するとしたらいいですよね。
子供は何の苦労もなくそれらを手に入れることができるのです。

でも、もしそうなってしまったら、子供のテストの点が悪いと叱れなくなってしまいます。
なぜなら、それはあなたの勉強不足の結果以外の何物でもないからです。
ただ幸か不幸か、知性が完全に遺伝するという報告はまだありません。

現在わかっているのは、食事によってネズミの体の色が遺伝してしまうということです。
アグーチ・バイアブル・イエローという、体の色が黄色のマウスがいます。
これは、茶色を発現する遺伝子が、
メチル化されることにより抑制されてしまったため、体色が黄色になっているのです。

もし、その遺伝子の抑制がはずれると茶色になってしまいます。
そこで、妊娠している雌のマウスのエサに、ちょっと細工をします。
あるグループのエサには、タンパク質のメチル化に必要なビタミンを添加したエサを与えます。

他のグループには、添加しないエサを与えます。
すると、生まれてきた仔マウスの体色は、ビタミンが多いか少ないかで、見事に色が違っていたのです。

ここまでは予想通りです。
生物のDNAにはたくさんの遺伝子スイッチが組み込まれていますが、
普段ONになっているスイッチと、OFFになっているスイッチがあります。

そして、それぞれのスイッチがONになるかOFFになるかを決めるのは、
その遺伝子がメチル化されているかどうかです。
ですので、メチル化を操作するエサを与えた影響が出ただけの話です。

遺伝子スイッチをONにするのは、もちろん遺伝要因もありますが、
この実験からわかるように環境要因も結構あります。

環境によってスイッチがONになる話は、何となくわかります。
ビジネスの場面でもありますよね。

ある部署では鳴かず飛ばずだった人が、別の部署に異動したとたん、
みるみる頭角を現したなんてことありません?

環境要因の中には食事や運動だけではなく、気持ちや考え方の変化なども含まれます。
人間の「やる気スイッチ」は、まさに「遺伝子スイッチ」でもあるのです。

さて、問題はこの後なのです。
この仔マウスの体色が、この仔のさらに仔、つまり孫世代の体色にも受け継がれてしまったのです。

一旦スイッチがONになってしまうと、子供だけでなく孫の世代にまで遺伝するのです。
今後さらに研究が進めば、どんな環境因子が、
どの遺伝子のメチル化(あるいは脱メチル化)によるスイッチONを引き起こすのか、
そしてそれが遺伝として子供に引き継がれるのか否かが解明されることでしょう。

ところで、この「獲得形質の遺伝」ですが、組織に関してはどうでしょう?
多くの場合、特定の管理職がコツコツ努力して作り上げた組織体質というのは、ほとんど遺伝しません。

次の管理職が赴任すると、半年くらいで組織の体質は元に戻ってしまいます。
苦労に苦労を重ねて、残業ゼロの仕事の進め方を定着させたとしても、
長が交代したとたんにブラック企業のようになってしまうことさえあります。

もし、長が交代しても引き継がれる体質があるとすれば、
それは一般に「伝統」という言葉で表現されるものです。

組織の体質変化が一過性のものではなく、伝統として定着するためには、一体何が必要なのでしょうか。

思うに、組織員全員のDNA組成が変わるくらいの、刺激的な経験が必要なのではないでしょうか。
知識やスキルを身につけたというような表面的な獲得形質ではなく、
脳の思考回路そのものが変わってしまうような強烈な体験です。

組織の体質を改善するだけでも大変な仕事ではありますが、
その改善された体質が組織のDNAとして脈々と引き継がれていくとしたら、
こんなロマンに満ちた話はめったにないと思いませんか。

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