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5☆s 講師ブログ

アポトーシス

アポトーシスという言葉を知ったのは、細胞死研究の第一人者、
田沼靖一の書いた『アポトーシスとは何か-死からはじまる生の科学』でした。

アポトーシスとは、細胞の自殺のことです。
例えばオタマジャクシの尻尾は、成長とともに消えてなくなってしまいます。
これは、尻尾を形作っている細胞が、自分の役割が終わる時を知り、自ら死のスイッチを入れるためです。

これは人間にも見られます。
胎児の手の指には、最初のうちは水掻きがついています。
まさに、哺乳類が進化する過程で、水中で生活していた時期があったことの証拠です。

しかし、やがてこの水掻きも消えてなくなります。
水掻きの細胞が、アポトーシスを起こしたからです。
もしアポトーシスが起こらないと、水掻きがついたまま生まれてきてしまいますので、大変なことになります。
そうならないように、いつ自殺すべきかという時期まで、ちゃんと細胞にプログラムされているのです。
このように、生物が自ら「死」のスイッチを入れるのは、何も細胞に限ったことではありません。

実は「寿命」もそうなのです。
意外に思うかも知れませんが、生物が「寿命」を手に入れるまで、何十億年もの時間を費やしています。

言い換えると、大変な苦労をしてようやく獲得したのが「寿命」なのです。
医学の著しい進歩により、現在人間の寿命は1日当たり5時間延びているそうです。
それに逆行するような話ですが、もし寿命がなかったら、一体どんな不都合が起きるのでしょうか。

まず、寿命のない生物で考えてみましょう。
えっ、そんな生物がいるのかって?

います。
単細胞生物はみんな寿命がありません。
例えば大腸菌を見てみましょう。

大腸菌は単細胞生物ですので、細胞分裂によって2つに増えます。
これを無性生殖といいますが、大腸菌の場合は20分もあれば分裂します。

大腸菌は、生息する環境が最適であれば、
細胞分裂を延々と繰り返すことによって、あっという間に数が増えます。
もし、地球全体が大腸菌にとって最適環境だとすると、
数週間で地球は大腸菌に覆われてしまう計算になります。

でもそんなことはありませんよね。
だって地球環境は過酷ですから。

そうなのです。
実は「環境」という言葉がキーワードなのです。

大腸菌が生息している環境が変化する、例えば温度が急上昇したりすると菌は全滅してしまいます。
無性生殖は単なる細胞分裂ですから、娘細胞は母細胞とまったく同じDNAを持っています。
いわばすべてクローンなのです。
だから、環境への耐性はみんな同じレベルです。

もしここに、異なるDNAを持った菌がいれば、
環境が激変してもそれに適応して生き残る菌が現れる可能性がでてきます。

つまり、DNAが多様な方が、種の保存には有利なのです。
そこで、生物は究極の対応策を編み出しました。
それが有性生殖です。

ヒドラというクラゲの仲間がいます。
普段は、成長すると体の一部が分離することで増えていますが、
環境が汚染されたりして生存が脅かされると、突如としてオスとメスが出現し、有性生殖をはじめます。
有性生殖というのは、オスとメスの遺伝子がシャッフルされますので、様々な組み合わせが可能となります。
ですので、新しい環境に対応できる個体が出現する可能性が高くなるのです。

整理すると、こういうことになります。
本来、生物はメスだけで生きていました。
しかし、環境の変化に適応するために、やむを得ずメスの変化形としてオスを作ったのです。
人間に男性と女性ができたのも同じ理由です。

人間は、最初はみんな女性に生まれるようにプログラムされています。
受精後7週目くらいまでは両方の性の原基を持っています。
後に輸精管となるウォルフ管と、後に卵管等になるミュラー管です。

女性の場合は、ミュラー管がどんどん発達する一方で、
ウォルフ管は発達せずに細い管となって残されます。

ところが男性の場合は、8週目にさしかかる頃、かなり面倒な作業が始まります。
男性ホルモンの指令によってウォルフ管を発達させると同時に、
ミュラー管細胞にわざわざアポトーシスを起こさせるのです。

男性にとってのミュラー管は、指の水掻きと同じなのです。
自然のままでは女性になってしまうので、
わざわざ手間隙かけて男性を作り上げる作業をするわけです。
つまり、アダムからイブが作られたのではなく、イブからアダムが作られたのです。

男性が後からできたことは、染色体を見ても明らかです。
染色体は 23対ありますが、そのうち 22対は常染色体といって、
Xの形をしたものが2つずつセットになっています。
片方は父方から、もう片方は母方からもらったものです。

しかし、23番目は性染色体といって、ちょっと違います。
女性の性染色体は、常染色体と同じようにXが2つのXXです。

ところが、男性はXとYの組み合わせになっています。
突然、Y染色体というのが出てきました。
これこそ、有性生殖を実現するために、無理やり作られたものなのです。

Yは、男性になれと指令を出す性決定遺伝子であるSRY以外、
重要な遺伝情報はほとんど乗っていないという、かなりポンコツな染色体です。

そのため、いろいろと不都合なことが起きます。
女性は、常染色体同様Xが2つあるので、もしどちらかにエラーが生じたとしても、
もう一方のXがカバーしてくれます。

しかし、男性はもう一方がYですので、カバーすることはできず、
異常が発現してしまう可能性が高くなるのです。
ですので、Y染色体は多くの哺乳類に見られるのですが、オスは一般的に生存には不利です。

私も男性のひとりとして、本当に悲しく思うのですが、生物学的観点から言うと、
オスは生殖という生涯最大の任務が終わってしまうと、ほぼ無用の存在となります。

それでも、進化した高等動物になると、
子供が独り立ちするまでオスが守ったりする者も現れますので、
父親の存在感は少しばかり高まります。

しかし、それも子供が独立するまでの話です。
人間の場合はどんなに贔屓目に見ても、
50才を過ぎて男性が生き続けなければならない合理的な理由は、
少なくとも生物学的には見当たりません。

その上、最近は会社でも「働かないオジサン」などと陰口を叩かれたり、
希望退職を募る際には真っ先に対象にされたりと、実に風当たりが強くなっています。

一方女性は、孫の世話をして母親である娘を助けることで、
生物学的には非常に興味深い「おばあさん」という地位を得たのです。

そして、田沼は言います。
有性生殖の出現と同時に、「寿命」が出現したと。

つまりこういうことです。
有性生殖で強い子世代を残すことができたとしても、
親世代がいつまでも居座っていては、子世代が生きていくスペースがありません。
ですので、種の保存のためには、親の世代は速やかに退場しなくてはならないのです。

しかし日本では、年金制度を維持するために、60才で定年退職した後も
希望すれば再雇用が認められます。
職場に高齢者が溢れ返る一方で、若者の働く場所が少なくなっていくのは、
自然の摂理に反しているとも言えましょう。

話を元に戻しますね。
生物にとっては、この「寿命」を獲得するまでが、実に長い道のりでした。
人類の永遠の夢である「不老不死」など、本来あってはならないことなのです。

死があるからこそ、次の世代の生が可能となる。
田沼の本のサブタイトル『死からはじまる生』とは、まさにそういう意味なのです。

ところで、50才を過ぎて、生物学的には「不要」の年齢ゾーンに入った頃、
私は会社から不本意な異動を命じられました。

一度でも会社勤めをした経験のある人なら、人事評価には常に私情が盛り込まれ、
客観的で正当な評価がなされることが極めて稀なことは誰でも知っています。

会社という組織は、生物の生き残り策とはまったく逆で、構成員の同質性を目指します。
ですので、異質な存在や、多様な考え方を極力排除しようとします。

その時私は、随分悩みましたが、結局思い切って転職して講師の道を選びました。
例え、その会社のモノサシでは納得のいく評価が得られなかったとしても、
社会にはきっと他の尺度があるはずだと信じて。

最近つくづく思うのですが,サラリーマンには、
「会社的価値」と「社会的価値」の2つがあるのではないでしょうか。

「会社的価値」を決定する要素は、仕事の実力だけでなく、社内政治活動や処世術、
さらにはマキャベリズムといった要素も結構なウェートを占めます。

しかし、「社会的価値」は違います。
今振り返るとあの時が、自分の「社会的価値」を問い続ける、長い長い旅の始まりでした。

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